この記事の3つのポイント
日本には、季節の節目ごとに無病息災や長寿を祈る「五節句」があります。
1月7日(人日=七草)、3月3日(上巳=桃)、5月5日(端午=菖蒲)、7月7日(七夕=笹)、そして本日・9月9日は「重陽の節句(菊の節句)」にあたります。
七草がゆや端午の節句と比べると、重陽の節句はやや影が薄い印象があるかもしれません。
しかし実は、平安時代から続く由緒ある行事で、菊の花を飾り、菊酒をたしなんで長寿や健康を願う風習がありました。
重陽の節句には、「被せ綿(きせわた)」という少しユニークな風習も伝わっています。
前夜に菊の花に真綿をかぶせ、翌朝その綿に移った夜露と香りを肌にあてることで、邪気を祓い、長寿を願ったとされています。
いわば、自然の恵みに身をゆだねる“セルフケア”の先駆けともいえる習慣。
こうした文化からも、日本人が「長く生きること」「時間をかけて熟すこと」に価値を置いてきたことがうかがえます。
この「熟成を祝う文化」は、現代の人的資本経営にも通じるところがあるのではないでしょうか。
人材を長期的に価値を生む投資対象として捉える考え方が広がりつつある中においては、たとえば、
- 健康経営:社員が長く健やかに働き続けられる基盤をつくる
- リスキリング・学び直し:変化に適応し続ける力を育む
- キャリアの多様性:若手からシニアまで、それぞれの段階に応じた活躍の場を用意する
これらはどれも、すぐに結果が出るものではありません。
時間をかけてじっくりと育まれ、やがて熟していく価値だと言えるでしょう。
ただし、こうした取り組みを本当に意味あるものにするには、社員と組織との間に信頼と愛着がなければなりません。
つまり、「エンゲージメント」が前提になります。
エンゲージメントが高ければ、人は自ら学び、健康に気を配り、長く貢献したいと感じるようになります。
反対に、関係性が希薄であれば、施策は一過性のイベントに終わりかねません。
重陽の節句が「長寿」や「成熟した関係性」を願う日であるように、人的資本経営もまた、「人と組織が持続的に結びつき、熟成していくプロセスを支えること」が本質なのだと思います。
統合報告書などの開示においても、この“熟成”と“エンゲージメント”の視点を取り入れることで、人的資本の取り組みに厚みが加わります。
- エンゲージメントスコアの推移や改善の背景
- 健康経営やダイバーシティ施策による長期的な成果事例
- 長期在籍社員による知識継承・人材育成のプロセス
など、「時間をかけて育まれた価値」**を具体的に語ることで、投資家やステークホルダーに対して、企業の“人への本気度”が伝わるのではないでしょうか。
ともすれば人的資本のKPIを「数字で埋める」ことに意識が向いてしまいがちな今だからこそ、「熟成」という時間軸で価値をとらえ直す視点は、自社ならではの取り組みにつながり、ひいては開示の面でも差別化にもつながっていくのではと思います。
重陽の節句は、菊や被せ綿を通じて「時間をかけて熟すことの尊さ」を語りかけてきました。
人的資本経営もまた、社員と組織が信頼関係を築きながら、じっくりと熟していくプロセスを支える営みといえるかもしれません。
9月9日に寄せて、ふだんは忘れがちな「人が熟す時間」と「関係性の持続力」に、あらためて目を向けてみてはいかがでしょうか。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。