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洋上風力撤退で揺らぐ再エネ戦略――RE100企業が直面する「量と質」の課題とは

サーキュラーエコノミー / ニュース / 気候変動

この記事の3つのポイント

  • 三菱商事が洋上風力3海域(1.76GW*1)から撤退。一方で政府は落札済み事業への追加支援や海域利用「30年超」容認*2*3、入札配点の見直し*4にに着手する方針が示され、供給見通しは“政策次第”の局面へ
  • RE100*7企業にとっては「量」確保に加え、証書・契約の“質”管理(非化石証書*5・EAC*6など)がこれまで以上に重要に
  • 今後の調達戦略では、短期の逼迫と中期以降の政策動向をふまえた柔軟な見立てが求められる

洋上風力の「撤退」という現実

2025年8月、三菱商事は秋田・千葉の3海域(合計1.76GW、150万世帯分に相当)からの撤退を発表しました。資材高騰や円安による採算悪化が背景とされています。

この出来事について、このシリーズ前回の記事では「次回詳しくお話します」とあらかじめお伝えしておりました。
本日はその詳細を整理し、RE100企業の調達戦略にどのような含意があるのかを考えます。

 

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最新動向(2025年9月12日=本稿公開時点)

撤退の発表を受け、政府は落札済み事業への追加支援*2の容認や海域利用を30年超とする方針*3を示しました。あわせて、価格に偏った入札配点の見直し*4や第2・第3弾公募への追加支援も検討対象に挙がっています。

短期的なタイトさは残る一方で、回収期間・収益性を政策面で補強する方向性は確認できました。今後の制度具体化のスピードと内容いかんでは、供給見通しが“下振れ一辺倒”から持ち直す余地も視野に入ります。

 

<参考記事>
洋上風力発電、落札済み事業の追加支援を容認 海域利用30年超も可能に
(日経電子版、2025年9月11日)

 

証書価格との関係――「直接的」ではなく「不確実性」の問題

撤退そのものが証書価格を直接押し上げると断定はできません。


ただ、2030年前後にRE100達成年を迎える企業にとって、非化石証書*5の価格上昇や調達競争の激化はすでに現実の課題です。今回の撤退は、そうした環境の厳しさを裏付ける“象徴的な事例”と捉えられそうです。

一方で、前段の政策テコ入れ(入札配点見直し・長期安定収入の確保策など)が実装されれば、PPA*8価格形成やEAC*6需給に中期的な緩和圧力が働く可能性もあります。短期は逼迫、中期は政策の具体化に連動――この二層の見立てが今は現実的ではないでしょうか。

 

RE100調達に迫る「量と質」の二重の制約

今回の撤退が突きつけるのは、次の二重の制約です。

1. 量の制約
2030年目標(10GW)の約18%に相当する容量が不透明化。企業は前広にPPAやオフサイト再エネの確保を進めざるを得ません。政策テコ入れで既存案件の“再設計・再始動”に道が開けば、一部は補える可能性もあります。

 

2. 質の制約
RE100は2025年にルールを改訂し、

- 発電設備の年齢上限(15年)

- 証書の確実なキャンセル(償却)

- 石炭混焼電力の不算入

といった点が、今回のRE100技術要件で明文化されています。

旧来型の「安価な古い証書」や曖昧な環境価値への依存はリスクで、トラッキング付“再エネ指定”非化石証書※5など、品質の見える化が欠かせません。

 

3つの補助線で考える「エネルギー循環」

これまでの記事でご紹介してきましたように、今回の供給ショックも「供給・需要・社会的ライセンス*10」の3つの補助線で整理できます。

供給:
撤退でPPA枠は当面タイトに。ただし政府は海域利用30年超の容認、落札済み案件への追加支援、入札配点の見直しに着手。回収性・耐性(為替・金利・コスト変動)を政策で補強する方向性が見え、再公募だけでなく既存案件の再設計で復活余地が生まれる可能性も。

 

需要:
RE100・SBT等の企業コミットメントに加え、GX-ETS*9など価格シグナルや規制の拡大で、需要側の要請が先行する構造は継続。短期の証書需給はタイトなままです。

 

ライセンス:
漁業・景観の合意形成は依然ハードル。入札の評価軸見直しは、社会的受容性と経済性の両立を促す契機にもなり得ます(地域合意の質を選考プロセスにどう織り込むかが焦点)。

 

結びとして

三菱商事の撤退は、日本のエネルギー循環における不確実性を改めて突きつけました。
一方で、政策テコ入れの具体化が進めば、供給見通しは“政策次第”で再評価が必要な局面に入っています。

RE100を掲げる企業さまにとっては逆風でもありますが、調達の“質”をどう高めるか、社会的合意とどう両立させるか――今後の調達戦略を考えるうえで、重要な論点が浮かび上がってきたとも言えるかもしれません。

 

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今週もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


補足:このブログで使用した専門用語の解説(初心者さま向け)

*1 【GW】1GW=10億ワット。1.76GWは家庭150万世帯分の年間電力に相当する再エネ発電容量の目安です。(なお、1.76GW=150万世帯相当は主要報道で用いられる便宜的換算で、設備利用率などの前提で上下します)

*2 【落札済み事業への追加支援】すでに選ばれた洋上風力事業者に対し、採算改善を目的とした補助などを国が追加する政策的措置(検討段階)。

*3 【海域利用30年超】洋上風力の風車設置海域は国からの「貸出(占用)」を前提とし、これまで最大30年でしたが、設備回収の観点から延長が検討されています。

*4 【入札配点の見直し】事業者の選定において、価格だけでなく事業の確実性・地域との合意形成などを評価軸に含める動き(検討段階)。

*5 【非化石証書】非化石電源の“環境価値”だけを切り出して取引する電子証書です。日本では再エネ指定のない一般の非化石証書は原子力等を含む場合があるため、RE100で計上する際は再エネ指定かつトラッキング付を用いるのが前提となります。原則1MWh=1枚で発行され、使用時はキャンセル(償却)して重複計上を防ぎます。

*6 【EAC】Electricity Attribute Certificate の略で、非化石証書の国際的な呼称。RE100達成にはこの「証明」が重要視されます。一般に1MWhにつき1枚。

*7 【RE100】企業が使用電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す国際的イニシアティブ。参加企業は世界で400社超。

*8 【PPA】Power Purchase Agreement の略。企業が再エネ電源と長期の電力契約を結ぶ仕組みで、コスト安定と環境評価の両立に寄与。一般に5〜20年程度の長期で価格や量を定める。

*9 【GX-ETS】温室効果ガスの排出量取引制度。GX(グリーントランスフォーメーション)の一環として、日本で段階的に導入されています。

*10【社会的ライセンス】法律上は問題がなくても、地域住民や社会の信頼を得て事業を継続できる“非公式な許可”のこと。

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