この記事の3つのポイント
2025年8月27日、経済産業省が新たに「サーキュラーエコノミーアクション」サイトを公開しました(公式サイトはこちら)。
このサイトの特徴は、これまで事業者や自治体向けの情報が中心だった循環経済政策を、生活者自身に向けてわかりやすく伝える設計になっている点です。
「かう(BUY)」「つかう(USE)」「わける(SORT)」「まわす(PASS ON)」という4つの行動を軸に、日常生活で取り組めるアクション例を提示。あわせて、2025年7月30日~8月1日に実施した1,000人調査の結果も掲載されています。
企業向けの情報発信拠点(サーキュラーパートナーズサイト)とあわせて、生活者と企業の両面からの発信体制が整ったという印象です。
生活者への発信にここまで踏み込んだ理由は何だったのか――
そのヒントは、おそらく大阪・関西万博にあります。
今回の万博は、来場者が循環経済を「学ぶ」だけでなく「体験する」ことを重視していました。
(例)
■学びを遊びに変える
科学漫画『サバイバル』とコラボした「サーキュラーエコノミー研究所」では、子どもたちが未来からのSOSを受け取り、研究所を冒険しながら循環の大切さを学ぶ仕掛けがありました。
■建物自体が循環の教材
日本館では会場で出る生ごみを発酵させ、バイオガスとして再利用。ドイツ館・オランダ館では、解体後に再使用できる建材が採用され、「建築も循環する」という思想が建物そのもので表現されていました。
■日常行動の実証
会場内には74カ所(※2025年6月時点)の給水スポットが設置され、来場者はマイボトルを持参して自由に給水する体験をしました。飲食ブースではリユース食器が導入され、返却して再利用する流れが「当たり前」として実装されていました。
■エンタメとの融合
スタンプラリーや謎解きゲーム、11kg超のコンクリートスタンプを押す体験など、遊びながら「資源を無駄にしない行動」に触れる企画が随所に展開されていました。
こうした仕掛けによって、循環は「守るべき義務」ではなく、「楽しい・便利・誇らしい」体験として印象づけられたのではないでしょうか。
ここで一度立ち止まって、日本の政策の流れを簡単にふり返ってみます。
日本の循環経済政策は長らく「個別リサイクル法」に依存してきました。容器包装、家電、自動車など、分野ごとに廃棄物処理の仕組みを整えるやり方です。これは一定の成果を挙げたものの、EUのように「循環=産業競争力の鍵」として戦略化されていたわけではありません。
生活者の役割も「分別する」にとどまり、「修理する」「返す」「シェアする」といった新たな行動には踏み込めていませんでした。
転機となったのが、2024年に改訂された「第五次循環型社会形成推進基本計画」です。ここで初めて、「国民一人ひとりのライフスタイルの転換」が方針として明記され、サーキュラーエコノミーが本格的に国家戦略として動き始めたといえるでしょう。
万博が生活者に「体験としての循環」を提供したのだとすれば、その次に求められるのは、「日常の行動へとどう落とし込んでいくか」です。
その理由は、大きく3つあります。
■市場が循環型製品を求め始めている
リユース容器サービスや修理ビジネスは、消費者の理解と協力がなければ成り立ちません。
■国際規制が消費行動に直結する時代に
EUでは製品の修理義務や包装材のリサイクル可能性がすでに法制化されています。
例:Right to Repair指令(2024年採択)、PPWR(包装規則:2025年2月発効、18か月後から多くの条項が適用)。
日本企業が対応するためには、国内市場でも消費者側の「使い方」の変化が欠かせません。
■脱炭素と同様、“社会全体の転換”だから
脱炭素が発電所や工場だけで完結しないのと同じく、循環も市民の選択・行動によって初めて成り立つものです。
生活者の行動変容が進む中で、企業の統合報告書やサステナビリティレポートにおいても、従来のような「環境に配慮した取り組み」の枠を超えた語り方が求められつつあるのではないでしょうか。
以下の2点は、特に有効な視点として参考になるかもしれません。
■「循環=戦略」という観点を取り入れてみる
再資源化・リユース・長寿命化といった設計思想が、
- 調達リスクの低減や価格変動への耐性
- EUやアジアの政策対応へのレジリエンス強化
- Scope3排出量削減やLCAでの改善余地
といった経営戦略やリスクマネジメントとの接点を持ちうることを示すと、読者にとって理解しやすい文脈となります。
■「資源の旅」としてストーリー化する
調達→製造→使用→回収→再生までを一連の流れとして示し、
- どこにリスクがあり
- どこで価値を再付与しているのか
- どんな協働が行われているのか
といった要素を「資源の旅」として図やプロセスの中に織り込むことも、読者(投資家・顧客・従業員)への理解を深める助けになります。
業種によってアプローチの方法はさまざまですが、自社なりの「循環と競争力のつながり」を描くことが、これからのサステナ情報発信における鍵となるかもしれません。
ご検討の一助となりましたら幸いです。
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今回もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。