SusTB communications サスティービー・コミュニケーションズ株式会社

未来に響くコミュニケーションレポートの企画・制作×コンサルティング

HINTサステナ情報のヒント

DXは“おいしさの時間”を生むか ― サントリー大阪工場にみる「ものづくり白書2025」の先

DX / サステナビリティレポート / ニュース / 価値創造ストーリー / 統合報告書

この記事の3つのポイント

  • サントリーは、DXで生まれた時間を“おいしさ”に再配分する姿勢を明確に示している
  • 製造現場が顧客体験の場へと広がり、DXが体験価値にもつながっている
  • 統合報告書では、効率化だけでなく“その先の価値”まで語ることが重要になってきている

 

サントリー大阪工場、原料運搬・投入を自動化」(日経電子版、2025年8月27日)というニュースを、私は思わず前のめりになって読んでしまいました。

とりわけ心に残ったのが、説明会で語られた「現場作業の負荷を減らして生産性を高める。自動化で創出した時間を高品質なものづくりの実現につなげる」との言葉でした。

この考え方は、2025年版「ものづくり白書」が示すDXの方向性と見事に重なっていました。

 

「ものづくり白書2025」が示すDXの姿

今年(2025年)5月に公表された2025年版「ものづくり白書」では、改めてDXの意義が整理されました。
そこではDXはもはや「省人化」「効率化」のための道具ではなく、労働力不足に対応しつつ、新しい付加価値を生み出す基盤と位置づけられています*1

 

なお、経産省のDX調査(2025)では、中期経営計画や統合報告書等にDXビジョンを明記する企業が86%(2024)→91%(2025)へ、ビジネスモデルの設計済みも75%→80%へと上昇しています*2

これを裏付けるように、統合報告書やサステナビリティレポートにおけるDXの記載も増えています。

ただ、IRの場ではDXはいまだに効率化・省人化の側面を強調して語られることが多い点には注意が必要です。なぜなら、投資家は、単なるコスト削減だけでなく「効率化で生まれた時間やコストといった余力をどの価値創出に再配分したのか」という、資本配分の妥当性に注目するからです。

この点、サントリーさん(以下、サントリー)のケースは注目に値するように思われます。

 

 

サントリー大阪工場のロボティクス導入

報道によれば、サントリーは2025年、ジンや缶チューハイなどの「キー原料酒」をつくる大阪工場の新工房に、先進的なロボティクスを導入したようです。

 

工程全体の自動化
倉庫からの搬入、開封、計量・検査、投入、容器洗浄までをロボットとAIで一貫処理

AIカメラによる検査
荷姿の自動認識、外観異常検知、さらに揮発成分による腐敗検知まで行い、データを蓄積

多様な荷姿への対応
ダンボール、紙袋、バケツなど複数の梱包形態を単一設備で処理できるよう、ロボットハンドを自動切替

効果
人手作業を約1/3削減(年間2000時間相当)、生産能力は従来比2.6倍に拡大

 

ここで注目したいのは、単なる省人化の成果ではなく、**「浮いた時間を“美味品質の追求”にあてる」**と明言している点です。

 

なお、サントリーの“つくりの裏側”へのこだわりは、製造工程だけにとどまりません。

日経記事によれば、サントリーは同じ大阪工場を「つくる現場」から「体験する場」へと拡張しつつあるようです*3

2026年春開始予定の工場見学ツアーに備え、蒸溜器を見渡せるデッキや360度シアタールームを整備。新設の「スピリッツ・リキュール工房」では、巨大な蒸溜釜の迫力やボタニカルの香りに触れながらテイスティング体験ができ、「おいしさの裏側を学ぶ顧客体験の提供」が用意されています。

 

白書との接点、そして一歩先へ

この事例を「ものづくり白書2025」の文脈で見直すと、次のように整理できます。

■一致点

  • 人手不足対応、少量多品種への対応
  • ロボット×AIによるデータ活用
  • 効率化の成果を「稼ぐ力」へつなげる姿勢

 

■一歩先を行く点
サントリーが強調しているのは、「浮いた時間をコスト削減に回す」ことではありません。

“おいしさを磨き込む時間”を確保し、体験価値を高めることです。

ここでいう“おいしさ”は単なる味覚ではなく、消費者が感じるブランド体験そのもの。実際、工場見学やテイスティングによって顧客が「日本の四季を感じるジンづくり」に触れられる仕組みは、AIやロボットが生み出した余力と直結しています。

つまりAIやロボットは「人に代わる存在」ではなく、「人が本来取り組みたい価値創造に集中し、それを顧客に還元する共存のパートナー」として描かれている——これは白書の方向性に合致しつつも、その先、つまり、AI共存時代の製造業の進化モデルを体現していると言えるのではないでしょうか。

 

他社との比較で見えるポジション

こうした姿勢は、単体事例としても印象的ですが、同業他社の取り組みと比べてみると、その独自性がさらに浮き彫りになります。

 

  • アサヒ:DXをBX(事業変革)として、プロセス/組織/ビジネスモデルの三位一体で推進

 

  • キリン:Brewing Takumi AIで「目標の味から逆算するレシピ提案」を行い、開発負荷軽減・技能継承を支援

 

  • コカ・コーラ ボトラーズ:四叉の自動フォークリフトなどで物流のフルオート化に踏み込む

 

これらに対しサントリーは、「上流の原料工程×おいしさ時間」+「顧客体験への橋渡し」という独自の領域で差別化している——言い換えれば、“量の自動化”ではなく“体験の深化”に投資している点が際立っているように見えます。

 

統合報告書やサステナビリティレポートに活かすヒント

サントリーの取り組みは、「DX=効率化」の枠を超えて、時間やリソースを“おいしさ”や“体験価値”に振り向けている点で、白書が掲げる方向性の“先”を体現しているように思われます。

このような視点で自社のDXを捉え直すことは、統合報告書やサステナビリティレポートにおける語りの深度にも関わってきます。

統合報告書やサステナビリティレポートにDXを盛り込む際には、次のような問いかけが参考になるかもしれません。

 

▽省力化の表現にとどまっていないか?
→「効率化」だけではなく、「価値創出への再配分」と書けるか

 

▽自社のコア価値とDXを結びつけて語れているか?
→食品であれば“おいしさ”、製造業なら“安全・信頼性”など

 

▽AIとの共存モデルを描けているか?
→AIに任せる部分と、人が集中すべき価値創造を明確に仕分けているか

 

▽顧客体験にまで接続できているか?
→サントリーのように、効率化→品質向上→顧客体験強化へとストーリーを描けるか

 

ご検討の参考となりましたら幸いです。

---

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで、

 

執筆担当:川上 佳子

 


脚注

*1 白書のポイントは、下記のようになっていました。

  • 人手不足への対応:製造現場での深刻な人材不足を補うためのロボット・AI活用
  • 少量多品種への柔軟対応:市場ニーズの多様化に合わせた工程のしなやかさ
  • 付加価値の創出=稼ぐ力の強化:単なる効率化に留まらず、成果を新しい価値につなげる
  • 経営コミットとデータ活用:工場単位にとどまらず、サプライチェーン全体の連携や標準化を進める

要するに「効率化は通過点であり、その先の価値創出にどうつなげるか」が問われていると言えそうです。

 

*2 経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課、独立行政法人情報処理推進機構「デジタルトランスフォーメーション調査2024の分析」(2024年5月27日)、「デジタルトランスフォーメーション調査2025
の分析」(2025年5月30日)

 

*3 参考記事:
サントリー、大阪工場に追加投資10億円 見学施設を整備(日経電子版、2025年2月18日)
サントリー、大阪ジン工場のツアー公開 26年春にもスタート(日経電子版、2025年6月26日)

ニュースリリース:「サントリー大阪工場「スピリッツ・リキュール工房」の原料取り扱いエリアを自動化― 現場技術者と中味開発者が連携を深め原料酒の「つくり込み」を実施する開発生産一体型工場を目指す ― (2025年8月26日)

記事一覧へ