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この記事の3つのポイント
2024年、食品企業の栄養改善への取り組みを定期的に評価してきた国際的な非営利組織「ATNI(Access to Nutrition Initiative)」が、第5版となる最新のグローバル指数を発表しました。
この指数は、世界の大手食品・飲料企業を対象に、製品ポートフォリオの「健康度」や栄養ガバナンスなどを多角的に評価するものです。2022年以降は投資家やNGOによるエンゲージメントにも活用されるようになり、企業のESG評価に確実に影響を与え始めています。
本日から3回シリーズで、ATNIの基本から最新動向までを3回にわたり解説していきます。第1回となる本記事では、ATNIとは何か?そして、どんな基準で企業が評価されているのか?をひもといていきます。
ESGで注目されるテーマは幅広く存在しますが、その中に新たに「栄養と健康」という軸が加わりつつあります。
肥満や栄養格差といった社会課題を背景に、「健康的な食品の提供」は投資家やNGOからの関心も高まり、企業の責任として問われ始めています。
こうした社会課題を背景に、食品・飲料業界の取り組みを客観的に測定し、世界的に発信しているのがATNI(Access to Nutrition Initiative)です。
ATNI(Access to Nutrition Initiative)は、オランダに本部を置く独立系の非営利団体です。
主なミッションは、世界の食品・飲料企業がどれだけ栄養価の高い製品を提供し、栄養改善に貢献しているかを可視化すること。
企業に対して独自の評価指数(Global Access to Nutrition Index)を発行しており、2024年には第5版が公開されました。
これまで25社だった対象企業が、2024年には30社に拡大。中国の伊利集団(Yili)など新興国企業も初めて含まれました。
今回の2024年版では、評価方法も大きく改訂されました。
以前の指数では評価基準が比較的シンプルでしたが、2024年版ではカテゴリーを8つに整理し、約50指標へと細分化。製品ポートフォリオの健康度やマーケティング方針、栄養ガバナンス、従業員への健康施策などを、これまで以上に詳細かつ数値ベースで評価する仕組みになっています。
特に、ATNI自身や機関投資家、株主団体が注目しているのが「健康的な製品が売上全体の何%を占めているか」という視点です。
この数値は、企業の栄養改善の進展度合いを客観的に示すものとして、投資家との対話や株主提案の場面でも取り上げられています(出典:ATNI「Investors in Nutrition and Health」 公式サイト)。
ATNIでは、オーストラリアの「ヘルススター・レーティング(HSR)」で3.5以上の製品を「健康的」と分類しています。
2024年の結果では、30社の平均で健康的製品が売上に占める割合は34%にとどまりました。
ATNIは2030年までにこの割合を少なくとも50%以上に引き上げるべきだと提唱していますが、現時点でその数値を公約している企業はごくわずかで、政府公認の栄養基準に基づいた数値目標を設定していたのは30社中わずか1社にとどまりました。
企業間の差も大きく、
上位企業:ダノン(1位)、伊利集団、バリラなど
→ ポートフォリオの健康度、方針の透明性が高い
下位企業:フェレロ、ハーシー、モンデリーズなど
→ 高脂肪・高糖分の製品が中心で、取り組みが限定的
という構図が明確になっています。
「とはいえ、直接の評価対象は食品や飲料の大手企業であり、うちの会社には関係ないのでは?」と思われる方もいるかもしれません。
ですが、ATNIの評価は投資家やNGOの対話材料として使われており、「健康」「栄養」という視点がESG評価全体の一部として広がりつつあります。
その広がりは製品の栄養度合いにとどまらず、従業員の栄養や健康管理――すなわち人的資本や健康経営開示とも接点を持つ領域にも到達しつつあります。
したがって食品業界以外の企業にとっても、ATNIの枠組みは将来的に参考となり、投資家対応や非財務情報開示のヒントになり得ると考えられます。
このシリーズ第2回では、ATNIがとくに重視している「子ども向けマーケティング規制」と、甘味飲料やアルコール業界への影響について掘り下げます。
次回もご覧いただけましたら幸いです。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。