この記事の3つのポイント
今週のブログでは「境界を越える」という共通テーマのもと、さまざまな視点を取り上げてきました。
最終回となる今回は、セザンヌとクリムト、2人の画家の作品から得た気づきをもとに、開示実務に何かしらのヒントを見いだせないか、ご一緒に探ってみたいと思います。
今回私が訪れたのは、
です。
この2つの展示会で私が特に感じたのは、作品の「見せ方」に対する意識の高さでした。
フレーム(枠)を意識的に超えてくるセザンヌ。装飾をあえて“平面”として使うクリムト。
これらの視点は、私たちが統合報告書やサステナビリティレポート等を設計する際の「構図」や「視線の誘導」に通じるものがあるように思います。
統合報告書やサステナビリティレポートなどの「報告書」の開示では、限られた紙面や画面の中に、どのように“読まれ方”を意識した情報設計をするかが問われます。
ということで今回は、①視線設計/②中身の筋道/③伝わり方の工夫 という3つの観点で、アートから持ち帰った「気づき」をまとめてみました。
セザンヌの風景画に共通するのは、「視線がキャンバスの外へと誘導される構図」です。
伝統的な構図が、「画面の中にすべてを収め、完結させるもの」であるのに対して、セザンヌの構図は、未完のままに見える空間や、描かれていない余白によって、むしろ“外側”の存在を強く感じさせます。
この感覚は、個人的に、統合報告書やサステナビリティレポートで「自社の外側」、つまり、サプライチェーン、使用・廃棄段階、地域社会や流域といった外部ステークホルダーとの関係を伝える場面を連想させます。
たとえば、Scope3の開示では、単に数字を並べるだけでなく、その数字が示す「社会や環境との関係性」やストーリーが読み手の視線を自然にたどれるような構成にすることが大切です。
たとえば、サプライチェーン全体での排出源の位置づけや、地域社会への影響がひと目でわかる図解や流れを添えることで、読み手が数字の背景や意味合いを直感的に理解でき、ぐっと伝わりやすくなるのではないでしょうか。
開示のヒント
- 最初に「全体地図」のような図解を提示して、関係性の広がりを見せる
- 図では“境界線”や“空白”も描き、未着手領域をあえて残す
- 依存(dependency)と影響(impact)を分けて説明する
“完璧に見せる”ことだけを目指すのではなく、“まだ見えていないこと”をあえて残しておくことも、読者にとってはかえって誠実さや信頼感につながるのではないでしょうか。
クリムトの黄金期の作品には、金箔や繰り返し模様といった装飾が画面の大半を占めます。人物や構図はあえて平面的に描かれ、奥行きを消したその表現が、かえって見る人を惹きつけます。
この“装飾の平面性”を見ていると、開示実務における「表層」の使い方が頭に浮かびます。たとえば、レイアウトや図解、アイコン、スローガン、認証ロゴといった要素は、読みやすさを助ける一方で、時には中身よりも先に目に飛び込んでしまうことがあります。
だからこそ、表層を効果的に活かしつつ、その下にある「ストーリー」や「根拠」も同時に届ける工夫は、全体の説得力を高めるヒントとなるように思いました。
開示のヒント
- 表層(要約)→中層(因果関係)→深層(定義・算出式)という3つのレイヤーを意識的に組み立ててみると、読み手にとって内容の理解が深まりやすくなるかもしれません
- 達成できなかった目標についても、原因や背景、今後の改善の方向性を添えて丁寧に共有することで、報告全体の誠実さや信頼性につながっていくのではないでしょうか
見せ方と伝え方——そのバランスを考えるうえで、クリムトの構図から得られる視点はご参考となるかもしれません。
セザンヌが示す“画面外への広がり”、クリムトが教えてくれる“装飾の強さと節度”。
私たちが日々取り組んでいる開示実務においても、ほんの少し見せ方や構成を工夫することで、「読み手の理解」や「伝わる印象」がより良い方向へ変化することもありそうです。
完璧である必要はありません。
まずは、1ページだけでも。ひとつのKPIだけでも。
「これまでと少し違う見せ方」を試してみることが、来年以降の開示をより良くする一歩かもしれません。
本件が、IR・サステナビリティご担当者の皆さまが日々の試行錯誤されている開示の小さなヒントとなりましたら幸いです。
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今週もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。