この記事の3つのポイント
大成建設による約1,600億円のTOB(公開買付)によって、東洋建設が子会社化される見通しとなりました(2025年8月8日発表)。
道路やダムなどを担うゼネコンと、防波堤や港湾整備を専門とするマリコン*1。この2つは、施工分野も官庁の管轄も異なるため、長らく棲み分けが続いてきました。しかし、今回の動きはその“壁”を事実上乗り越えるものとなりそうです。
背景にあるのは、市場の縮小や資材コストの高騰、人手不足といった構造的な課題です。
こうした変化の中で、「いまの業務領域だけを守っていく」だけでは将来に対応しきれないと感じる企業も出始めています。社会全体のインフラ課題が広域化・複雑化するなかで、自社の体制やパートナーシップを再構築しようとする動きが少しずつ広がってきています。
この動きを読み解くカギとなるのが、「港湾」という存在です。
実は、日本の貿易の重量ベースで99%以上は港を経由しており、港湾は国家物流の要といえます。そして今、その港湾をめぐってGX(グリーントランスフォーメーション)や国土強靱化、物流の2024年問題など、さまざまな社会課題が集中しつつあります。
たとえば、政府が進めるカーボンニュートラルポート(CNP)構想では、2025年6月時点で全国48港が計画を策定し、水素・アンモニアの受入れや陸電(OPS:Onshore Power Supply)*2対応、脱炭素型設備の導入などが進められています。
臨海部には重工業が集中しており、これらの産業の脱炭素化を実現するには、港を起点としたインフラ整備が欠かせないと考えられています。
さらに、岸壁や港湾施設の老朽化や、高潮・津波・地震などへのリスク対応は喫緊の課題です。国土強靱化計画の中でも、港湾は防災・減災投資の重点エリアと位置づけられています。
海外でも同様の動きが見られます。
EUでは2030年から、コンテナ船・旅客船(5,000総トン以上)を対象に、EU港での停泊中は陸電(OPS)などゼロエミッション手段の使用を求める規制が始まる予定です(一定の例外あり)。
また、港側のOPS整備義務も、対象港や要件を拡大しながら段階的に適用される計画が示されています。
こうした動きが進むことで、欧州向けに輸出を行う日本企業にとっては、寄港地のインフラ状況が調達や販売戦略に影響する可能性が高まっていくと見込まれます。
日本国内でも、横浜港(本牧ふ頭A-4岸壁など)では周波数変換設備付きOPSの整備が発注済みで、東京港では整備に向けた検討・計画が進行中です。さらにシンガポールとの間では、グリーン&デジタル・シッピング・コリドー(緑の航路)の構築に向けた官民連携が始まっています。
つまり港湾は今、物流とエネルギー、国内と国際、公共と民間をまたぐ“交差点”としての重要性を増しつつあります。
こうした文脈のなかで、今回の大成建設の再編は、単なる事業多角化ではなく、「境界を引き受ける力=キャパシティ」を確保しようとする動きと捉えられます。
洋上風力、臨海部の脱炭素インフラ、物流施設の再構築など、社会的なニーズは“陸と海のつなぎ目”に集まりやすく、ここでは複数分野をまたぐ高い施工・運営力が求められます。
大成建設は2023年にもピーエス・コンストラクション(旧ピーエス三菱)を買収し、基礎構造物への対応力を高めるなど、こうした境界面の実装力を積み上げてきました。
境界を超えるとは、単に新分野へ進出することではなく、越境を可能にする組織的な備えをつくること――今回の一連の動きは、その意思を示す事例の一つと言えるでしょう。
境界を超えるとは、既存の業務範囲を広げるだけでなく、まだ手をつけていない領域を想像し、その実現に向けて力を蓄えることです。
これは必ずしも大きな投資や劇的な改革を意味するわけではありません。しかしGX、物流改革、レジリエンス、国際競争力といったテーマが絡む今こそ、越境可能な組織づくりに向けた第一歩を考える好機といえるのではないでしょうか。
通勤電車も空いている今週、その余白を使って「越境」について考えを巡らせてみるのも良いかもしれません。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1:この部分の説明は、「総合建設業」と「海洋土木業」のすみ分けについてご理解いただきやすいように、話を単純化しています(必要以上に専門的な用語(例:下請・一次請け構造)は避け、役割ベースの説明に留めています)。なお、ゼネコン(General Contractor)は、ビル・道路・トンネル・ダムなど幅広い建設工事を一括して請け負う総合建設会社を指します。マリコン(Marine Contractor)は、港湾・海岸・防波堤などの海洋土木工事を専門とする建設会社の通称です。
*2:「陸電(OPS:Onshore Power Supply)」とは、船舶が港に停泊中、船内の電源として港湾側から供給される電力(陸上電源)を使用する仕組みのことです。これにより、船舶が自前のディーゼル発電機を使わずにすみ、停泊中のCO₂やNOₓ、騒音の排出を大幅に抑える効果があります。欧州を中心に国際的な導入が進んでおり、日本国内でも整備が始まっています。
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。