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「スマイルあげない」に学ぶ、提供者を守るサービス設計~人的資本経営で考える“お客様は神様”の落とし穴とは

人材戦略 / 人的資本開示

「お客様は神様」の落とし穴

日本では長く「お客様は神様」という言葉が美徳として語られてきました。顧客を大切にする姿勢は確かに素晴らしいものですが…

無料サービスを過剰に提供することは、本当に持続可能(サステナブル)なのでしょうか。

 

実は、こうした観点からサービスの見直しが行われているというニュースが最近、相次いで聞こえてきています。

 

「スマイルあげない」という逆転の発想

かつて、日本マクドナルドには「スマイル0円」というサービスがありました。
(ご記憶のかたも多いのではないでしょうか)

顧客を笑顔で迎えるサービス精神の象徴として長く親しまれてきたこのサービスですが…
この「無料スマイル」を明文化したことがカスタマーハラスメント(カスハラ)につながった可能性も否めません。「無料だから要求しても良い」という心理は、一部の顧客の間に無理難題や過度な要求を生み出しやすく、結果、現場の従業員が精神的負担を抱えるケースにつながることは、容易に想像し得るからです。

 

こうした中、

日本マクドナルドは2023年から「スマイルあげない(No Smiles)」キャンペーンをを打ち出しました。

この取り組みは、従業員が自らの判断で「スマイルをあげない」こともできるようにしたもので、従業員が不適切な要求から自らを守る権利を企業が認める画期的なものでした。つまり、「顧客を守る」だけでなく、「従業員を守る」という発想への転換です。

「スマイルあげない」キャンペーンの好影響もあって、2024年以降もクルー応募者数は高水準を維持しているそうで、2025年6月には同キャンペーンが「カンヌライオンズ2025」で銀賞を受賞とのニュースもありました*1

 

介護業界でも起きていた「無料の弊害」

同様の視点で、介護業界の例を挙げてみましょう。SOMPOケアは2024年4月から『ちょこっとプラス』という新たな介護保険外サービスを始めました。

従来、介護現場では利用者からの「ちょっとしたお願い」を無償で受けてしまう慣習がありましたが、これが介護士の過重労働やモチベーション低下につながっていたのだそうです。

 

ちょこっとプラスは業界の不適切な慣習の打破にもつながりそうだ。介護保険制度は複雑で理解しづらいため、利用者が介護保険外サービスにあたる要望をする例は多い。利用者が「ささいなお願いだから」と有償サービスの利用を嫌がる場合、介護士は関係悪化を避けるために無償で対応することも多いとされる。介護士のモチベーション低下につながりかねず、問題視されている。

制度の趣旨に沿い、要望への対応を有償で提供する仕組みにすれば、「無償サービス」を淘汰する風潮が業界全体に広がり健全化を促せるとみる

出典:日経電子版「訪問介護、5分550円で「保険外」の困りごとお手伝い SOMPOケア」(2025年7月28日)

 

『ちょこっとプラス』では、これらの小さな依頼を1回5分単位で有償化(5分550円)し、提供側である介護士のプロ意識を高め、責任あるサービスを持続的に提供できる仕組みを整えました。その結果、利用者と介護士の関係性も健全化され、サービス品質の維持向上にもつながっているのだそうです。

 

従業員を守ることは、企業全体の守りにつながる

これらの事例が示しているのは、「従業員を守る」ということが、企業にとって単なる「人的資本経営」という枠組みを超えて、企業活動全体を持続可能にするための重要な基盤であるということです。

無料サービスを過剰に提供し続けることは、一見顧客満足度を高めるかもしれませんが、その裏で従業員が疲弊し、離職率の増加やサービス品質の低下といったリスクが高まります。従業員のモチベーションが下がることは、企業のブランド毀損という長期的なダメージにもつながります*2

逆に言えば、従業員の安全や健康、精神的な安心が保たれることは、モチベーションや定着率を高めるだけでなく、現場での事故やトラブルの減少にもつながります。また、サービス提供者が余裕を持って働ける環境では、自然とサービス品質が向上し、顧客満足度やブランドの信頼性も高まります。

 

今こそ、サービスの再設計を

たとえば、これまで当たり前とされてきた「無料=美徳」という前提をいったん問い直し、サービス提供者が安心して働ける環境を整える一歩を踏み出してみるのはいかがでしょうか。『スマイルをあげない』という選択肢を設けることで、サービス品質の維持やリスク低減、さらには企業全体のサステナビリティ向上につながる可能性が広がります。

サステナビリティ担当の皆さまにとっても、従業員という「人財」をどう守るかは日々のお悩みの種かもしれません。

そんなとき、もし現場で“無意識の無料サービス”が続いていると感じたら、一度立ち止まり、従業員への負担やリスクを一緒に見つめ直してみませんか。小さな改善が、サービスの持続性とブランド価値のどちらにもプラスに働くかもしれません。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


脚注
*1 出展:2025年6月24日付リリース「日本マクドナルドの「スマイルあげない(No Smiles)」キャンペーンが
「カンヌライオンズ2025」にて銀賞を受賞-2024年Engagement部門Social & Influencer金賞に続き2年連続の受賞-」

*2 こうした負の連鎖はESGスコアにも直結します。MSCI ESG RatingsではSocialピラーの「Human Capital Development」キーイシューで、年間従業員離職率や従業員満足度調査の頻度が評価指標に組み込まれており、離職率が高い企業はスコアを落とします。またFTSE Russell ESG ScoresもSocialピラーの「Labor Standards」テーマで、労働条件・健康安全・雇用安定性などを300以上の指標で定量評価しています。従業員を守れない“無料サービス文化”は、人的資本経営だけでなくESGスコア低下という形で資本市場リスクにも跳ね返りかねないとも言えます。

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