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株主優待再評価のススメ――「公平な利益還元」だけでは見落とすかもしれない企業価値向上の新常識

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「公平な利益還元」は本当にベストか?

最近、プライム市場企業を中心に「公平な利益還元」を理由として株主優待を廃止し、配当などに集約する動きが加速しています。しかし、このような「公平性重視」の施策が本当に株主の満足や企業価値の向上に直結しているのでしょうか。

今回のブログ記事では、日本証券業協会が2025年4月15日に発表した「株主優待の意義に関する研究会 報告書」(以下、本報告書)をもとに、「公平性重視の優待廃止」が見落としている新たな事実に目を向けていきます。

株主優待が株価と企業価値に与える効果

本報告書によれば、株主優待は企業が想定する以上に低コストかつ高い効果をもたらすことが、データとして裏付けられています。

特に注目したいのは、次の2点です。

  • 株価のボラティリティが平均15~25%も低下(安定化)
  • PERが非導入企業に比べ平均約5~8%高く評価されている

これらは「公平な利益還元」という名の下で株主優待を廃止した企業が簡単に得られない効果です。

つまり、優待制度は単なる「おまけ」ではなく、費用対効果(ROI)の極めて高いIR施策であることが示されたのです。

このデータは、企業が目指すべき「公平性」の先にある、本当の意味での「株主還元」とは何か?を問い直す契機となるのではないでしょうか。

 

株主優待は優秀なマーケティング施策

株主優待制度には、数字では測りきれない「隠れた価値」も存在します。

 

  • 株主優待を導入した企業では、個人株主数が未導入企業の約2倍に増加する傾向があります。
  • 投資額の少ない個人株主は、現金配当よりも優待品を受け取った際に感じる心理的満足感(ギフト効果)が非常に高く、これが株式の長期保有(保有効果)につながります。
  • 株主が自社製品を使うことで「ブランド愛着」が高まり、結果として企業の長期的なファン(ブランドアンバサダー)になる可能性があります。

 

優待制度を廃止すると、企業はこうした個人投資家とのつながり、ひいては長期的な企業価値向上のチャンスを失うリスクを負うことになります。

つまり、「公平性」という理屈のみに注目すると見落としてしまう、マーケティング的価値が株主優待には潜んでいるのです。

 

そもそも個人投資家の価値はもっと重視されてもよい

上場企業——特に時価総額の大きい企業さまにおいては、機関投資家や海外投資家が企業の主要な株主として注目されるのが通常です。

しかし近年、特に市場が不安定な局面では、企業の長期的な価値を保つために、個人投資家、とりわけ「長期保有するファン株主」の存在が極めて重要であることが、改めて認識され始めています。

その理由は主に以下のような点にあります。

① 株価の安定化に寄与

個人投資家、特に優待目的などで長期的な株式保有を前提としている株主層は、短期的な市場の変動に対しても売却を控える傾向が強く、市場全体の動揺を和らげる「安定株主」として機能します。

実際、本報告書によれば、株主優待制度を通じて個人株主数が増加した企業では、株価のボラティリティ(変動率)が平均約15~25%低下しており、マーケット環境が悪化した際の株価下落を抑える効果が確認されています。

② 敵対的買収に対する防衛力の向上

長期保有の個人投資家層が厚い企業は、敵対的買収に対する一定の抑止力として機能する可能性が指摘されています*1

③ 企業評価(バリュエーション)の向上

さらに、個人投資家の保有割合が高い企業は、市場からの評価(バリュエーション)も高くなる傾向があります。本報告書では、実際に優待を導入して個人株主を多く抱える企業は、非導入企業よりも株価収益率(PER)が平均5~8%程度高くなるとのデータも報告されています。
このデータからは、個人投資家のロイヤルティが PER 向上に寄与する可能性も読み取れます*2

 

IR施策としての株主優待――公平性と戦略性の両立を

企業は当然、「公平な利益還元」を考慮しなければなりません。しかし、そこで思考を止めず、株主優待がもたらす「低コストで高いROI」や「個人株主マーケティング効果」といった多面的な価値も同時に再評価する必要があります。

株主優待の多面的価値の一部は依然として仮説段階にありますが、低コストで株主層を拡大し得る点はエビデンスが蓄積されています。IR 戦略としては、「公平性」を担保しつつ、仮説も含めたポテンシャルを検証し続けることは有効といえるでしょう。

加えて、個人投資家は、資本市場の構造変化を受けて今あらためて戦略的に重視すべきステークホルダーとなりつつあります。

IR担当者の皆さまにおかれましては、この機会に株主優待の制度設計を再検討し、「公平性」と「戦略性」を両立した、より効果的な株主コミュニケーションを追求してみてはいかがでしょうか。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。

執筆担当:川上 佳子


*1 とはいえ、この点については事例ベースの観察が中心で、日本企業を対象とした網羅的な定量研究は限られているため、現時点では明確な因果関係を示す統計的証拠は不十分です。IR 担当者としては、個人株主との対話や議決権行使の傾向を継続的にモニタリングし、買収リスク対応の一要素として位置づける姿勢が現実的と言えるでしょう。

*2 報告書で示された PER の上昇(平均+5〜8%)は事実ですが、要因については諸説あり、ブランド愛着・ロイヤルティの影響は「仮説」の段階です。現時点では「①個人株主の需要増による株式需給の改善」「②優待導入企業に成長志向の企業が多い」など複数要因が併存すると考えられます。以上を踏まえ、「ロイヤルティが PER 向上に寄与する可能性がある」と記載しました。

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