2025年7月1日からマクドナルドが放映を開始した「ビッグマック『明日も 笑おう あの頃も今も』篇」が話題を呼んでいるようです。
『めぞん一刻』『きまぐれオレンジ☆ロード』『超時空要塞マクロス』といった80年代の名作アニメの名シーンに、伝説的なCMソング「I feel Coke」。そして、櫻坂46の守屋麗奈さんが笑顔でビッグマックを頬張る映像。
確かに話題性十分のCMでしたが… 個人的にはちょっとモヤモヤしてしまいました。
ターゲットは、アニメに心躍らせた当時の若者?
それとも、今の若年アニメファン?
なお、視聴者のSNS上の反応を確認したところ、「懐かしいけど、なぜマック?」「何を伝えたいのか分からなかった」といった戸惑いの声も少なくなかったように見えました。
今回のブログでは、この「ちょっとモヤモヤした」(私が)CMを題材にして、個人向けIRでの「伝わるコミュニケーション」について考えてみたいと思います。
このCMの背景には、「我々はあなたを理解している」という企業の意図が感じられます。「懐かしいでしょう?」「これ好きだったでしょう?」という問いかけのような構成。
でも──
受け手からすれば、「マクドナルドは私のことを分かっているつもりで、何かを押しつけてきている」ように感じたのも事実でした。
懐かしさ、アニメ、ハンバーガー、炭酸飲料。
どれも魅力的な要素なのに、つながりが曖昧で、「何を伝えたいのか」がぼやけてしまった。
これは、個人向けIRにも通じる“散漫なコミュニケーション”の落とし穴かもしれません。
成長戦略も、配当方針も、ESGも…すべて伝えたくなる気持ちは分かります。
でも、すべてを詰め込むと「結局、何が大事だったのか?」という印象だけが残ってしまいます。
これは、マクドナルドのCMが「懐かしさ」「商品」「ブランドストーリー」をすべて盛り込んだ結果、視聴者に戸惑いを与えてしまった構図と重なります。
若年層、配当重視層、ESG志向層…。それぞれに異なる価値観を持つ投資家に、ひとつのメッセージで語りかけても、情報の粒度が合わず、“自分ごと化”されません。
あのCMがアニメファンと中高年を一度に狙い、どちらにもモヤモヤを残したように、IRでも「誰向けか分からない」情報は信頼に結びつきにくいのです。
投資家アンケートや属性分析で得た“傾向”を鵜呑みにし、「あなた方が求めているのはこれでしょう」と決めつけてしまう。
けれど本当に大切なのは、「わかってるつもり」ではなく、「わかろうとする姿勢」なのではないでしょうか。
たとえば──
「当社は“稼ぐ力×還元力”で⻑期複利を実現する企業です」
こんなワンフレーズがあるだけで、話す内容やスライドの取捨選択が自然とできるようになります。
属性や年齢だけではなく、「投資家の感情」×「情報感度」の2軸でペルソナを描くのも効果的です。
| タイプ | 関心の起点
(感情) |
情報感度・
接触方法 |
有効なアプローチ |
|---|---|---|---|
| 安定志向 × ライト層 | 配当・安心感 | SNSやWeb | 配当推移の図解、
3分でわかる動画 |
| 成長志向 × 情報感度高 | 将来の株価上昇 | 決算資料・
説明会 |
セグメント別の成長KPI、
時系列変化 |
| 共感志向 × 潜在層 | 社会貢献・理念 | インタビュー・note | 社員や地域とのつながり、
非財務のビジュアル |
IRは対話です。
だからこそ、「聞く仕掛け」を事前に仕込んでおくのも良いでしょう。
(例)
- ウェビナーでリアルタイム投票機能を使う
- IRサイトに匿名の3分アンケートを常設
- 投資家の声を次回資料にきちんと反映する姿勢
なかなか難しい工夫かもしれませんが、相手が個人投資家だからこそ、「聞いてくれている」と感じてもらえることで企業への信頼感が増す効果は大きいように思います。
統合報告書も、情報量が多くなりがちです。
だからこそ、「読み方をナビゲートする工夫」が有効です。
●たとえば こんな工夫ができます
ー 目次や各章の冒頭に「この章は○○に関心のある方へ」などの一文を添える
- 中計やKPIの進捗は「何が進んでいて、何が次か」をひと目で分かる構成に
- ハイライトだけを抜粋した“5分で読める要約版”を別途用意
- 読者の声から「知りたいことランキング」をつくり、FAQ形式で反映
“書いたら終わり”ではなく、“届けて初めて意味を持つ”のが統合報告書です。
読み手との距離を縮める設計は、報告書の価値を大きく高めます。
マクドナルドのCMは、企画としては非常に意欲的ですし、実際、反響も呼んでいますので、マーケティング施策としては「成功」なのだと思います。
ですが、これをメッセージとしてみた場合には、「想いや素材を詰め込みすぎたことで、受け手との間に温度差が生まれ」かねないものになっていたように感じました。
私たちがつくるIR資料や統合報告書も、同じです。
伝えたいことを「全部詰める」のではなく、「きちんと届く形で、芯を通して伝える」。
そして、「わかろうとする姿勢」を忘れずに持ち続ける。
それこそが、個人投資家との⻑期的な信頼関係を育む、“ブランドとしてのIR”の土台となるのではないでしょうか。
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今週もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。