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【ニュース走り書き】日産の工場閉鎖で“本当に大きいコスト”はどこにあるのか――人的資本の視点からの気づき

ニュース / 人材戦略 / 人的資本開示

事業再編の表向きメリット

日産自動車は、2025年7月15日に「神奈川県の追浜工場での完成車生産を2027年度末で終了し、九州工場へ統合する」と発表しました。

あわせて日産車体の湘南工場で続けてきた委託生産も2026年度に終了します。

追浜だけで2,400人、世界全体では約2万人の雇用が削減対象となる大幅な合理化策です。

経営側は「稼働率40%の工場を維持するより固定費を15%削減できる」と説明し、跡地売却も含めた財務改善効果を強調しています。

しかし、この施策を評価するものさしは「財務改善効果」だけでよいのでしょうか。

 

横浜近郊に基幹工場を置くことの意義――目に見えない士気の源泉

日産がマザー工場を、追浜という横浜にほど近い場所に置いたことは偶然ではないと思います。

あくまで私見ですが…

横浜近郊の立地は、大都市圏の文化的・社会的利便性に近接していることで従業員の生活満足度や家族の教育環境、余暇の充実度を高めます。それが技術や生産に携わる従業員のモチベーションとなり、「技術の日産」を作っていたという可能性は大いに考えるのではないでしょうか。

追浜が果たしてきた「マザー工場」の役割

追浜工場は1961年に操業を開始し、日産の主力生産拠点として長年機能してきました。特に、「マザー工場」として位置付けられ、生産技術の確立やグローバルな生産指導、技術者育成の中心的な役割を果たしてきました。

技術開発と革新の拠点:追浜工場には生産ラインだけでなく、総合研究所、テストコース(GRANDRIVE)、衝突試験場、専用埠頭が併設されており、先端技術の研究や安全性・性能の検証が行われています。このような環境は、技術者にとって最新技術に触れ、挑戦できる場を提供し、モチベーションを高める要因になり得ます。

グローバル人材育成:追浜工場内のグローバルトレーニングセンターでは、生産工程や工場管理に関する講座を提供し、従業員が日産の生産方式を学んできました。この「マザー工場」としての役割は、従業員に誇りや責任感を与え、技術力への自信を育む一因と考えられます。

「技術の日産」と追浜工場

「技術の日産」というフレーズは、日産が電気自動車(EV)「リーフ」の世界初量産(2010年)や、ノートe-POWERの生産など、先進技術をリードしてきた歴史を反映しています。

追浜工場がこれらの車種の生産を担い、かつ技術開発の中心であったことは、従業員にとって技術革新に直接関与する機会を提供し、モチベーションの源泉となった可能性があると、私は考えます。

具体的には・・・

 

先進技術への関与:追浜工場は、EVやハイブリッド車(e-POWER)の生産ラインを持ち、混流生産(異なる車種を同一ラインで生産)を実現するなど、技術的な挑戦を続けてきました。このような環境は、技術者や生産スタッフにとって、最新技術に携わる誇りややりがいを感じさせる要因となり得ます。

 

女性活躍の推進:追浜工場では「モノづくり女子」として女性従業員の活躍を推進し、女性リーダーや働くママが現場で活躍しています。多様な人材が活躍できる環境は、従業員全体のモチベーション向上に寄与する可能性があります。

 

からくり改善:従業員の知恵と技術を活かした改善活動(例:「ラクラク載せ替えかんた郎」が優秀賞受賞)が評価されており、現場での創意工夫が認められる文化は、技術者や生産スタッフのモチベーションを高める要因と考えられます。

 

移転と統合は従業員エンゲージメント低下につながる可能性も?

では、こうした状況下で、「追浜から九州へ」となった場合、従業員の方々の士気にはどのような影響があるのでしょうか。

もちろん推測の域を出ませんが、従業員の方々が長年培ってきた仕事への誇りや、自分たちが技術革新の中心にいるという実感が薄れてしまうリスクは否定できないのではないでしょうか。

なぜなら、追浜工場は単なる生産拠点ではなく、まさに日産の技術力を象徴する場所であり、そこにいる従業員は、常に「自分たちが最先端の現場に立っている」という高い誇りと意識を持って働いてきた可能性が高いからです。日産が築き上げてきた技術開発やグローバル人材育成の核であった追浜から離れることは、単なる勤務地の変更以上に、自らの役割やアイデンティティの変化として受け止められるかもしれません。

また、追浜という都市近郊の環境で享受してきた生活利便性や家族の教育環境から離れ、地方へと移ることで、従業員の家庭やプライベートにも影響が及ぶでしょう。家族の理解や協力を得る負担も増え、仕事に集中する余裕が失われる可能性もあります。

 

さらに、従業員のエンゲージメントが低下すると、職場の士気や連帯感が損なわれ、生産現場での改善活動や技術革新に対する自発的な取り組みも停滞しかねません。その結果、短期的な生産効率化の恩恵を上回るほどの中長期的な技術力の低下や、イノベーションの停滞という「見えないコスト」が生じる恐れがあります。

 

おわりに

経営再建を余儀なくされるなかでは難しい判断であることは承知しつつも、
サステナビリティの観点からひとこと申し上げるならば…

再編を単なる「場所の移動」や「人員合理化」として終わらせるのではなく、「従業員のモチベーション」や「働きがい」をどう維持・向上させるかという人的資本の視点でのアプローチも重要ではないか、ということを申し上げておきたいと思います。

 

日産が追浜で築いてきた「技術の日産」の価値を、九州工場でも再現し、再定義していくためには、人的資本を重視した経営戦略が不可欠です。地域は変わっても、「追浜マインド」が引き継がれ、生かされる環境づくりが進められることを願っております。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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