ガバナンス / コーポレート・ガバナンス / 勉強用(初学者様向け)
2025年6月30日に金融庁が公表した「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」は、プライム市場の上場企業にとって無視できない重要な動きです。
この連続シリーズでは、「アクション・プログラム」の冒頭から主要な改革ポイントまでを、プライム上場企業のIR部門やサステナビリティ部門の方々――特に若手のご担当者さまにもわかりやすいように、やさしく解説していきたいと思います。
2015年にコーポレートガバナンス・コードが適用されてから約10年。日本企業のガバナンス体制は大きく前進してきました。独立社外取締役の選任、指名・報酬委員会の設置、取締役会の実効性評価など、制度対応は着実に進んでいます。
しかしその一方で、「対応すること」が目的化し、**企業の価値創造に本当に役立っているか?**という疑問の声も多く聞かれるようになりました。特に、企業価値の源泉となる“稼ぐ力”を高める議論や取り組みが、十分に取締役会や経営戦略に反映されていない――という問題意識が、規制当局や投資家の間で共有されています。
そこで発表されたのが、シリーズ第3弾となる「アクション・プログラム2025」です。2023年、2024年と毎年策定されてきた過去のプログラムを踏まえつつ、今回は単なる制度対応から一歩進み、企業と投資家の“本気の対話”や“戦略と整合したガバナンス”を目指す実践的な改革方針が打ち出されています。
本プログラムの中でも、プライム市場上場企業に直接関係の深いポイントを以下の3点に整理してご紹介します。
東京証券取引所は2023年以降、プライム・スタンダード上場企業に対して、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業を中心に「資本コストや株価を意識した経営」への転換を要請しています。その文脈の中で、アクション・プログラム2025でも再び「稼ぐ力の可視化」が重要テーマとなりました。
たとえば、自社株買いや増配といった株主還元だけでなく、研究開発や人的資本、知財、スタートアップ連携などへの“成長投資”をどれだけできているか。そしてその結果として、資本コストを上回るリターンが出せているか。こうした説明が、IR部門にもより強く求められていきます。
有価証券報告書ではすでに「人材戦略」や「多様性の考え方」などの開示が義務化されつつあります。アクション・プログラム2025では、さらにこれを拡充し、次のような情報開示が求められると示されました:
- 企業戦略と紐づいた人材戦略の概要
- 従業員の給与・報酬の決定に関する方針
- 従業員の平均給与額およびその前年比増減率
つまり、従業員にどのような考え方で報いるのか、それは企業成長とどう結びついているのかを、より定量的・定性的に説明する責任が生まれてきます。サステナビリティ部門はもちろん、IR部門としても投資家との対話の中でこうした“人的資本と企業価値の関係”を言葉にできるようになる必要があります。
形式的には、プライム市場ではすでに「独立社外取締役3分の1以上」が定着しています。しかしアクション・プログラム2025では、さらに「社外取締役を過半数とすること」や「社外取締役に求める専門性の具体化」まで踏み込んだ方向性が示されています。
また、今後新たに注目されているのが取締役会事務局(コーポレートセクレタリー)の機能強化です。単に取締役会の“段取り”を担うだけでなく、社外取締役への適切な情報提供や議題設定の調整など、ガバナンスの要となる役割が期待されています。
こうした実務は、法務・総務部門だけでなく、IR・サステナビリティの情報設計・開示にも関わってくる部分です。たとえば、「何を重要議題として取締役会に上げるべきか」「どのような形でサステナビリティ戦略を説明できるか」といった視点で、部門横断的な連携が求められていくでしょう。
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このように、アクション・プログラム2025は、形式的なガバナンス整備を越えて、“実効性”ある対応を求める内容となっています。来週公開のシリーズ続編では、それぞれのテーマ(資本効率、人的資本開示、取締役会改革など)をさらに深掘りしていきますので、ぜひご期待ください。
今週もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。