本日(2025年7月10日)の日経電子版にて、サイゼリヤが朝食メニューの試験販売を始めたとの報道がありました。
サイゼリヤが朝食メニュー、ドリンクバー付き300円 まず都内(日経電子版、2025年7月10日)
サイゼリヤは9日、東京都江東区の1店舗で朝食メニューの試験販売を始めたと明らかにした。フォカッチャやパニーニなどとドリンクバーのセットを300~450円で提供する。8月末をめどで数店舗に導入店舗を拡大し、消費者の潜在需要を探る。中期的には全国展開をめざす。
6月19日から「大島ピーコックストア前店」(東京都江東区)で午前7時〜午前10時にかけて「朝サイゼ」と銘打って朝食メニューのテスト販売を始めた。セットメニューは「フォッカチオ」(300円)や「パンチェッタとチーズのパニーニ」(450円)などでいずれもポテトとドリンクバーがつく。
本日のブログでは、この「朝サイゼ」が持つサステナビリティ戦略としての可能性を、外食業界・企業経営・社会課題という3つの視点から考察してみます。
「食品ロスの削減」は多くの企業にとって重要なテーマですが、店舗内でのロス削減には限界もあります。
この点、特にサイゼリヤのように提供メニューがあらかじめ限定されている業態では、ランチやディナーで余ったパン・ポテトなどを活用する「朝食シフト」は、構造的な廃棄抑制の仕組みとして機能します。
つまり「朝営業=追加の仕入れ」ではなく、「余剰在庫の時間差活用」。
見方を変えれば、サーキュラーエコノミー的発想を取り入れた運営ともいえるのではないでしょうか。
外食業界の多くの店舗では、午前中の時間帯に客数が少ないため、営業を行っていないケースが多く見られます。しかしその間も、冷蔵庫や空調、照明といった設備は稼働しており、人件費も最低限発生するため、エネルギーや人材の“固定的な消費”が避けられません。
こうした時間帯に営業を拡大することで、すでに動いているインフラの活用効率を高め、1時間あたり・1売上単位あたりの環境負荷を相対的に下げることが可能になります。
この視点は、サステナビリティ経営において見落とされがちな「設備稼働の時間的ムダ」への処方箋とも言えます。営業“拡大”が、環境負荷“縮小”につながるというのは、少し意外に見えるかもしれませんが。
「朝サイゼ」は、社会的サステナビリティという観点でも注目すべき取り組みではないかと考えます。
都市部では、共働きや単身世帯の増加、高齢化の進行などにより、「家庭で朝食をとること」が当たり前ではなくなりつつあります。とくに高齢者の孤食、若年層の欠食、そして通勤・通学者にとっての「落ち着ける朝の居場所」の欠如は、見えにくいけれど深刻な地域課題です。
そんな中、300円から取れる温かい朝食と居心地の良い空間を提供する「朝サイゼ」は、地域の誰もが気軽に立ち寄れる“朝のインフラ”として、コミュニティの再生や孤立の防止に資する可能性も秘めています。この文脈でとらえるならば、「朝サイゼ」は単なる新サービスではなく、「食」と「場」の力によって、社会的弱者や多忙な都市生活者のニーズに応える重要なアプローチということになります。
朝食という小さな選択肢が、地域社会のウェルビーイング向上に貢献する戦略的ツールになり得る──それが「朝サイゼ」の示す新たな可能性です。
もちろん、「朝サイゼ」は、サイゼリヤ自身が直面している経営課題にも通じています。
| 課題 | 「朝サイゼ」での対応 |
|---|---|
| 固定費の吸収率の低さ | 朝時間帯を営業することで稼働率を改善 |
| 新規顧客層の開拓 | 通勤・高齢者など、新しい層への訴求 |
| 業態の硬直化(単一モデル依存) | 新時間帯・新価格帯による柔軟な対応力獲得 |
同社の株価が反応したのもうなずけますね。
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「朝ごはんを売る」というシンプルな行為が、食品ロス削減、環境負荷の低減、地域貢献、経営の柔軟性向上という、複数の課題に同時に作用する──サステナビリティ経営における“複利的打ち手”ともいえる今回のニュースのとらえかた、皆さまのご参考になりましたら幸いです。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。