SusTB communications サスティービー・コミュニケーションズ株式会社

未来に響くコミュニケーションレポートの企画・制作×コンサルティング

HINTサステナ情報のヒント

【勝手に提案】政策×戦略の重なりをどう書く?──次回の統合報告書、サンリオだったらこう書ける

価値創造ストーリー / 統合報告書

政府の方針や支援策を、統合報告書でどう活用するか──これはいま、多くの実務担当者が直面している問いかもしれません。2025年6月に経済産業省が発表した「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」は、2033年までに日本のコンテンツ産業の海外売上高を20兆円規模にまで拡大するという意欲的な方針を掲げ、エンタメ系企業にとって強力な追い風となりそうです。

とはいえ、多くの企業さまにとって「この政策を報告書にどう書くべきか?」という具体策はまだ見えづらいところ。そこで今回は、サンリオさん(以下、サンリオ)の2024年統合報告書に書かれていた内容をヒントに、「もしこのあとに発表された政策を意識して追記するなら、こんなふうに書くと投資家への訴求力がもっと高まるのでは?」という“勝手な提案”をしてみたいと思います。

 

もちろん、サンリオに限らず、ゲーム、アニメ、音楽、映画などのあらゆるエンタメ企業に応用できる視点です。実務的なヒントとして、ぜひ次回の統合報告書づくりに役立てていただければと思います。

 

政策の後押しをどう活かすか:エンタメ産業と政策の重なりに注目

経済産業省の「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」は、ゲーム、アニメ、漫画、音楽、映画、デザインなど10分野で100のアクションを明記し、コンテンツ産業のグローバル競争力強化を目指しています。

JETROによる海外市場データ提供、現地ネットワーク支援、海賊版対策(CODAとの連携)、地方創生やインバウンド需要の取り込みなど、幅広い施策が含まれており、サンリオのようなキャラクターIPビジネスはもちろん、他のエンタメ業種でも活用可能な内容です。

2024年のサンリオ統合報告書は、政策発表前に発行されたものですが、その中に示された新IP「フラガリアメモリーズ」、クロミのSNS展開、アリババとの中国市場戦略などは、結果的に政策の方向性と高い整合性をもっています。次回の統合報告書では、これらの取り組みを「政策との連動」という視点で補足できると、説得力がさらに高まるでしょう。

 

【実務ヒント】

次回以降の「外部環境分析」セクションで、政府の戦略を引用しながら、自社の取り組みとの接点を明記するのがおすすめです。
例:
「当社の海外展開は、経済産業省の『エンタメ・クリエイティブ産業戦略』におけるJETRO支援の方向性とも合致しており、今後も政策支援を活用しながら事業成長を加速させてまいります。」

 

政策を成長ストーリーにどう組み込むか

政策は「外部環境」情報として紹介するだけでなく、自社の中長期的な成長ストーリーを裏打ちする文脈としても有効です。

たとえば、サンリオは「時価総額1兆円」「営業利益500億円」という中長期目標を掲げ、教育・メタバース・海外展開といったIPの多角展開を進めています。こうした成長戦略に、政策による支援(たとえばJETRO支援、地方創生施策など)を重ねることで、より現実性とスケーラビリティのある構想として伝えることができます。

開示フレームワーク例
  • 政策の特定:自社と関連性がある支援策を把握(例:「創風」プログラム、フィルムコミッション支援など)
  • シナジーの説明:その政策が自社のどの戦略と重なるか(例:海外ファンの獲得、技術導入による新規事業展開)
  • KPIの明示:支援策を活用することで設定可能な数値目標(例:海外売上比率の拡大、イベント来場者数など)

 

【実務ヒント】

「成長戦略」セクションで、こうした支援策と連動したKPIを記載することで、ストーリーの実行力が明確になります。

 

投資家に伝えるための「政策×市場トレンド」活用

市場も今、エンタメに注目しています。2025年6月には、日本のエンタメ業界の時価総額が自動車産業を超えたと報じられました(ご参考:日経電子版「時価総額、エンタメが自動車抜く 上位9社で見えた日本株高の原動力」(2025年6月30日))。

これを裏付ける形で、「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」も世界135兆円規模のコンテンツ市場成長や、地方創生への波及効果に言及しています。

次回の統合報告書では、こうしたマクロトレンドと自社の戦略を重ねることで、投資家の関心に応える構成が可能になります。サンリオで言えば、テーマパーク運営や自治体連携型イベントなどは「地域巡礼」支援とも連動しています。

 

【実務ヒント】

 「市場環境」セクションで、政策やマクロ市場のデータを図表で可視化し、自社のポジショニングと併せて示しましょう。

 

政策でリスク管理を補強する

政策は攻めの材料だけでなく、守りの視点でも有効です。たとえば、人材不足や海賊版被害への対策は、業界横断の課題として「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」にも盛り込まれています。

サンリオも、従来のハローキティ依存から脱却するためのIP多角化や、知財管理強化への姿勢を報告書内で明示しています。これらの取組みが政策支援とどう重なるかを記載すれば、信頼感や先見性の訴求にもつながります。

 

【実務ヒント】

 「リスク管理」セクションに、業界課題×政策支援による対策を例示するのがおすすめです。

 

サステナビリティ文脈でも政策を活用できる

「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」は、地方創生や文化の持続可能性といった観点でも支援を打ち出しています。

サンリオの「みんななかよく」という理念や教育プログラムは、SDGsの「質の高い教育」「住み続けられるまちづくり」といった目標と自然につながります。

次回の統合報告書では、こうした活動と政策の方向性を結びつけて記載することで、サステナビリティ文脈での社会価値訴求にもつながります。

【実務ヒント】

 「サステナビリティ」セクションで、地域・教育・文化振興といった政策支援との関係を図解や事例で示すと効果的です。

 

貴社の統合報告書にいかす第一歩

「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」に限らず、政府の政策を次回の統合報告書でどう活用するか——その第一歩は、自社の戦略や活動との接点を整理することです。

 

【アクションの整理】

  1. 政策の棚卸し:JETRO支援、クリエイター育成、地域振興など
  2. 接点の洗い出し:既存の取り組み・課題と重なるものを整理
  3. KPI・成果の可視化:数値や時系列で変化を示せる指標を検討
  4. セクション別に活用:成長戦略・リスク・市場環境・サステナビリティなどで使い分け

 

今回の「勝手に提案」事例を参考にしながら、政策という「外の力」も活かして、次回の統合報告書をもっと読みごたえあるものにしてみませんか?

政策と企業戦略がかみ合うことで、投資家にも社会にも伝わるレポートがきっと描けると思います。ご支援が必要な場合、お気軽にお声かけください。

 

今週もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

記事一覧へ