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企業は何にどう備える? 海外資本を活かす実務ポイント~「海外資本活用ガイドブック」読み解き②

価値創造ストーリー / 統合報告書

前回の記事では、日本政府の政策姿勢が「海外資本からの防衛」から「戦略的活用」へと大きく舵を切ったこと、そしてそれに伴い企業に求められる視点が「拒む」から「備える」へと転換していることを整理しました。

今回はその続編として、企業が実際に海外資本と向き合う場面で“何を、どう備えるべきか”を具体的に見ていきます。

なぜ「備え」が重要なのか

突然の出資提案や買収提案は、ある日突然やってきます。とくにプライム上場企業であれば、その可能性はゼロではありません。ではそのとき、自社にはどのような備えがあるか。想定していなかった、何も決まっていない——そんな状況では、社内は混乱し、社外ステークホルダーとの信頼も揺らぎかねません。

だからこそ、「来るかもしれない」に備えた“平時の準備”が不可欠です。
政府のガイドブックも、この点を繰り返し強調しています。

では具体的に、どのような備えが求められるのでしょうか。

【1】戦略を軸にした判断基準を明確にする

まず前提となるのは、「海外資本受け入れの可否を判断する軸」が明確になっているかです。

たとえば、
どの事業領域で外部資本との連携を許容するのか?

  • どこまでの出資比率を受け入れるか?
  • 経営に関与されることに、どの程度まで耐性があるか?

こうした問いに対し、「すべて経営陣の腹の中」ではなく、社内で合意された方針として整理されている必要があります。

戦略が定まっていればこそ、「この提案は受けるべきか」「この相手は自社にとって望ましいか」を冷静に評価することができます。逆に、戦略なき判断は、説得力も整合性も欠くことになりかねません。

 

【2】ガバナンスの仕組みを準備しておく

次に必要なのが、社内の意思決定体制の整備です。

たとえばセブン&アイHDは、海外企業からの買収提案に対し、社外取締役を中心とする特別委員会を設置し、客観的な観点から慎重に内容を検討しました。このような「検討の場」の仕組みが、平時から用意されているかどうかで、企業の対応スピードと透明性は大きく変わります。

また、株主との対話のルール、重要な戦略事項に関する承認プロセスなど、「説明できるガバナンス」を日頃から築いておくことが、いざというときの備えになります。

 

【3】従業員・取引先への影響を見据える

海外資本の受け入れは、社内外に不安を呼ぶ可能性があります。「雇用は守られるのか?」「取引条件はどうなるのか?」——そうした声に備えるためにも、あらかじめ社内外ステークホルダーへの影響を見立てておくことが必要です。

たとえば以下のような項目は、出資交渉の初期段階から確認・整理しておくべきでしょう。

  • 従業員の雇用・処遇に関する方針
  • 経営体制・ブランドの維持方針
  • 提携後の成長戦略と、その中での既存事業の役割

こうした情報があれば、提携が決まった際にもブレずに発信できますし、従業員や取引先の理解・協力も得やすくなります。

 

【4】対話と交渉のリテラシーを高める

そして何より重要なのは、海外資本と建設的に向き合うための“対話力”です。

ガイドブックでは、経営者自らが交渉の前面に立ち、相手と粘り強く議論することの重要性が繰り返し述べられています。譲れる条件と譲れない条件を整理し、自社の価値の源泉(技術、人材、ブランドなど)を相手に的確に伝えるスキルが問われます。

また、文化や法制度の違いによるギャップも当然あります。言語面だけでなく、「相手の意図をどう読み解くか」「自社の考えをどう伝えるか」について、専門家の力も借りながら、“交渉に耐えうる体制”を整えておくことが重要です。

 

「準備している企業」こそが、交渉の主導権を握る

海外資本の受け入れを“待ち構える”必要はありません。ただし、いつ何時、どんな提案が来てもおかしくない——それがプライム市場上場企業の現実です。
そのとき、「検討の準備があるかないか」で、企業は受け身に流されるか、主体的に選択できるかが分かれます。

次回(第3回)では、実際に買収提案を受けたセブン&アイ・ホールディングスの対応を詳しく取り上げながら、企業がとるべき対応のあり方と、そこから得られる学びを掘り下げていきます。

 

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今回もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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