2025年6月27日、経済産業省は、企業価値向上に向けた海外資本活用に関する研究会 最終報告書を公表しました。
経済産業省が主導して作り上げたこの報告書(ガイドブック)からは、これまで日本企業が“なんとなく避けてきた”海外資本との関わり方について、明確なメッセージが読み取れます。
それは、ひと言で言えば「海外資本はもはや“脅威”ではなく“戦略的リソース”として活用すべき存在だ」という姿勢の変化です。
これまで、日本企業にとって海外からの出資や買収提案は、どこか“防衛すべきもの”として受け止められてきました。とくに上場企業においては、経営権の維持や雇用への影響を懸念し、外資を遠ざけるケースも少なくありませんでした。
しかしガイドブックでは、日本企業の海外資本活用が依然として国際的に「低水準」である現状を問題視し、その背景には“心理的ハードル”の存在があることを明記しています。そして、今後の企業価値向上に向けて、「自前主義から脱し、海外プレイヤーとの連携を含めた戦略的選択を」と促しています。
実際、海外資本には経営ノウハウ、ネットワーク、グローバル人材、そしてスピード感といった、今の日本企業が欲しているリソースが詰まっています。経営の高度化や海外展開に向けた“伸びしろ”を引き出すための選択肢として、もはや「使わない手はない」とさえ言えるのかもしれません。
とはいえ、このガイドブックは一貫して、「海外資本をとにかく受け入れよ」とは言っていません。むしろメッセージの本質は、「企業として、正しく備え、主体的に判断できるようになれ」というところにあります。
ポイントは大きく3つです。
① 経営の自律性をどう保つか
出資比率や統治構造によって、経営への関与の度合いは大きく変わります。単に“過半数を渡すかどうか”ではなく、自社が守るべき価値(技術、人材、文化)を明確にし、それを踏まえて適切なパートナー像を描くことが求められます。
② ガバナンス体制の整備
資本構成が変わることで、社内の意思決定プロセスにも影響が出る可能性があります。出資者との間で重要事項の協議・承認事項をどう定義するか、独立性を確保しながら信頼関係を築ける体制をいかに設計するかが、経営の透明性を左右します。
③ ステークホルダーへの説明責任
海外資本との協業は、従業員や取引先に不安を与えることもあります。こうした変化を「成長への打ち手」として社内外にどう語るか。語り方次第で、その後の協業の進み方も大きく変わってくるでしょう。
このように見ていくと、政府が本ガイドブックを通じて企業に求めているのは、“自律的な意思決定主体としての構え”であることがわかってきます。
海外資本の受け入れは、流れで決まるような話ではなく、ましてや経営陣が「誰かに決められる」ことでもありません。
大切なのは、自社のビジョンと整合する形で、海外資本の「使い方」を自ら設計できるか。つまり、「使われる側」ではなく「使いこなす側」へと立ち位置を変えることが、今、企業に求められている——本ガイドブックの核心は、ここにあると言えるのではないでしょうか。
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この連載・第2回では、企業が実際に海外資本と向き合う場面で“何を、どう備えるべきか”を具体的に見ていきたいと思います。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。