人材戦略 / 人的資本開示 / 価値創造ストーリー / 統合報告書
「統合報告書の価値創造ストーリーが伝わりにくい」—―これは、多くの統合報告書制作担当者さまの悩みです。
そんな中、この課題に真正面から挑み、驚くほどストーリーを絞り込んで大胆に振り切った──そんな統合報告書が発表されました。それが、すかいらーくホールディングスさん(以下「すかいらーく」)の2024年12月期統合報告書です。
外食業界では、今、人手不足が事業拡大のボトルネックになっています。
日経MJの第51回飲食業調査(2024年度)によれば、4社に1社が出店計画を下方修正。その原因として、少子化や時給の上昇で人手の確保が難しくなっていることが挙げられています*1。
そんな状況下、すかいらーくは、人材を価値創造の主役定め、人的資本に投資し、これを核とした統合報告ストーリーを徹底的に描きました。
冒頭からストレートです。「人は付加価値を生む成長の原動力」とうたい、店長を“経営者”と位置づけ、最大年収1,000万円の制度導入を紹介。人的資本を「コスト」ではなく「成長のための投資」として描くこの構成は、メッセージが明快で、読後に「一本芯が通った報告書だった」と印象が残ります。
キーワードは「店舗中心経営」。現場で働くマネジャーの育成・評価制度改革、スポットクルーやクルーポイントなどの柔軟な人材シフト体制、DXの活用による業務効率化などが、図解つきでわかりやすくまとめられています。
特に優れているのは、「人への投資が生産性を上げ、付加価値を生み、顧客満足・収益向上につながる」という因果ロジックを、ストーリーと図の両面で語っている点だと感じました。
価値創造プロセスのなかで、「人」を起点にした成果のサイクルが明確に示されている点は、アナリストや投資家からも高く評価されるのではないでしょうか。
感度の高いアナリストや投資家が本当に知りたいのは、「他社と横並びの指標」ではなく、その企業が何を目指し、どう進もうとしているのかを物語る指標です。
すかいらーくの統合報告書には、まさにそのような“自社の価値創造プロセスに沿ったKPI”がいくつも登場します。(どんなKPIなのかは、ぜひ実際の統合報告書でお確かめください…!)
これらの指標は、どれも「すかいらーくが目指す組織のあり方」そのものを体現したKPIです。
目標と手段の接続が明快だからこそ、ストーリーとしても響くこれらの数字が、図やグラフで明快に提示され、単なる制度紹介に終わらない「成果の物語」として説得力を持たせています。
さらに、インストラクターとして活躍する外国人従業員のストーリーや、現場での取り組み紹介も、人的資本を企業文化として定着させている様子を伝えてくれています。
すかいらーくの報告書から得られるヒントとして、次の3点があります。
今後、統合報告書には「人材への投資と戦略の関係性」がますます求められるようになっていきます。
「うちには強みがない」と悩む前に、ストーリーの軸を一本に絞り、振り切って描いてみる。
すかいらーくの報告書は、その一歩を踏み出す勇気をくれる開示事例だと感じました。
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お読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:日経電子版『外食「人手確保しにくく」7割弱、サブウェイは全員スキマバイトから 日経MJ飲食業調査』(2025年6月22日)
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。