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そのカスハラ対策、人的資本経営の武器にできていますか?──改正法を追い風に、いま始めたい開示と対話のヒント

人材戦略 / 人的資本開示 / 統合報告書

2025年6月、企業にカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)防止を義務付ける改正労働施策総合推進法が成立しました(出典:日経電子版記事)。2026年中の施行を予定しており、対応方針の明確化や相談窓口の設置が企業に求められることになります。

この話題、気になりつつも「担当部署は違うし、来年(2026年)になって話を聞くまでは我々としては動けないよね…」と思っていらっしゃるサステナビリティ担当者さま、IR担当者さまも多いのではないでしょうか。

 

ですが、ここで少し立ち止まって考えてみませんか?

カスハラ防止の義務化は、単なる“法対応”ではありません。
むしろ、従業員の安心と信頼を見えるかたちで支えることで、人的資本経営を一歩前に進めるチャンスでもあるのです。

今回は、「カスハラ防止の義務化」が企業にもたらす人的資本経営上のインパクトをひもときながら、施策づくりと開示のヒントをご紹介します。

 

カスハラ対策を人的資本の課題ととらえるべき理由

接客・サービス業に限らず、「心ない言葉に傷ついた」「業務に支障が出た」という相談は、どの業界でも聞かれるようになってきました。

実際、厚労省調査では約半数の従業員が何らかのカスハラ被害を経験しており、東京都では独自の条例を制定するなど、地方自治体レベルでも対策が始まっています。

 

こうした状況を受けて、国としても「職場の安全衛生」としてのカスハラ対策を明確に制度化。今後は、対応方針の策定・相談窓口の設置・再発防止策の導入が、すべての企業に義務付けられます。

ただ、今回の法改正には罰則規定がないため、「やってもやらなくても同じ」と考える向きもあるかもしれません。でも実は、その“義務の中身”が、今後の人的資本開示や投資家対話において、大きな意味を持ってきそうなのです。

 

人的資本経営に及ぶ 5 つのインパクトとは

厚生労働省が作成・公表しているカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを参考資料として、カスハラ対策が人的資本経営にどのような面で影響するのかを考えてみました。

1. エンゲージメント & 離職リスク低減

カスハラは職場への信頼感や心理的安全性を損ない、離職や人材流出を引き起こします。防止策の整備は、エンゲージメントの維持・強化という観点でも人的資本経営の土台づくりにつながります。

2. メンタルヘルス対策の前提条件に

強いストレスは精神障害や不調の原因となり、健康被害・休職・退職にもつながります。一次予防としてのカスハラ対策は、メンタルヘルスへの投資効果を高める基盤です。

3. 情報開示の論点化

防止方針・相談窓口・再発防止策の整備は、人的資本開示で求められる「リスク管理」や「従業員との関係性」の具体策として有価証券報告書や統合報告書に組み込むことができます。

4. リスクマネジメントとしての位置づけ強化

企業が適切に対応していない場合、被害者側が労災申請や損害賠償請求を行うケースもあり、レピュテーションリスクや訴訟リスクに発展します。体制整備はその予防策でもあります。

5. ダイバーシティ & インクルージョンの実質化

女性や非正規雇用者が被害を受けやすいことも指摘されており、ジェンダー平等や包摂性といった人的資本経営の中核テーマにも密接に関わります。

 

…いかがでしょうか。
カスハラ対策として問われている内容が、人的資本経営の「本丸」に影響していることを実感していただけるのではと存じます。

 

カスハラ対策も「定量化」と「開示」がカギになっていく?

先ほど「情報開示の論点化」と書きましたが、

カスハラ対策として問われている内容が、人的資本経営の「本丸」に影響するのであれば、早晩、カスハラ関連のKPI開示が求められることになるかもしれません。

 

当面のKPIとしては、たとえば下記などが考えられるのではないでしょうか。

  • 相談件数(100人あたり/年)
  • 是正完了率
  • 平均解決日数
  • 再発率
  • 研修受講率(フロント/管理職)

 

2026年以降、これらの指標は、今後、投資家や社内の対話の場でも役立ってくる可能性がありますし、企業様の状況にあわせて、より柔軟にKPIを設定していくことも良い考えであると存じます。

 

企業価値を高める “6つの実務アクション”

とはいえ、「当社として」何から始めればいいかわからない…とお考えのご担当者さまには、以下の6つのステップがヒントになるかもしれません。

 

  • 自社の現行規程を棚卸し(パワハラ・セクハラとの統合を検討)
  • 方針と運用フローの明文化(誰が、いつ、どう対応するか)
  • 相談窓口の整備(匿名化・多言語対応も視野に)
  • 研修設計と年次必修化(ロールプレイ研修が効果的)
  • KPIの設定とモニタリング(できれば3期比較で傾向を見せる)
  • 外部への方針公表と実績開示(有報または統合報告書へ)

 

こうした取り組みを一歩ずつ進めていくことが、「声を聴く」「応える」企業姿勢として、いずれ評価につながっていくのではと考えます。

 

おわりに:そのカスハラ対策、伝わるかたちになっていますか?

カスハラ防止は、従業員の安心・安全を守るだけでなく、投資家との信頼を築く“経営資源”でもあります。

制度ができた今こそ、“仕組みづくり”と“伝え方”の両輪で進めていきたいところです。

“伝え方”においては、たとえば有報では「相談件数・是正率」などのKPIを明記し、統合報告書では「離職率との関係性」「経営課題としての位置づけ」などを語ることで、説得力のあるストーリーを描くことができます。

この機会に、ぜひ一度、貴社の開示や施策が「伝わるかたち」になっているか、見直してみてはいかがでしょうか。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。

執筆担当:川上 佳子

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