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プリンの価格が2020年にくらべて約5割も高くなり、洋菓子の中でも突出して値上げされている*1──そんなニュースがありました。報道によれば、「家庭でも簡単に作れる」という認識が根強く、価格を上げにくい商品だったことも背景にあるそうです。
ですがこの前提、少し疑ってみませんか?
プリンの価値って、本当にそんなに低く見積もられていいものなのでしょうか…?
プリンは長年、スーパーやコンビニで気軽に手に入る「手頃なおやつ」として親しまれてきました。その背景には、「家庭でも作れる=安くて当たり前」という思い込みが根を張っていたのかもしれません。
しかし、問題はこの「思い込み」だけではありません。
実は、私たちの感覚自体が、社会の変化に追いついていないのです。
たとえば、かつて卵は「物価の優等生」と呼ばれ、牛乳も身近で安定した食品でした。
でもいま、酪農の現場では気候変動や飼料高騰、後継者不足といった課題が深刻化しており、生産コストは年々上がっています。
にもかかわらず、私たち消費者の多くは「昔のままの価格感覚」を持ち続けている。
このギャップこそが、今回の値上げで浮き彫りになった「認識のアップデート不足」なのです。
プリンの“安さ”は、本当に「当然のこと」だったのでしょうか?
いま必要なのは、そうした前提を見直し、プリンの価値を改めて伝え直すことなのではないでしょうか。
商品の本来の価値をきちんと伝えることは、実はサステナビリティとも深くつながっています。
価格改定によって得られる利益は、企業にとっての“未来への投資原資”になります。
その代表格が、人件費や教育費といった人的資本への投資です。
逆に、値上げを避けて収益を圧迫すれば、そのツケは従業員の賃金や労働環境に跳ね返ります。
実際、最近では「価格改定→賃上げ→生産性向上」という流れを前向きに捉える企業が増えています。
2023〜2024年には、政府の後押しもあり、大手企業を中心にベースアップが相次ぎました。
持続的な成長に必要なのは、価格を抑える努力だけではなく、適正な価格で価値を届けることなのです。
もうひとつ見逃せないのが、サプライチェーンの健全性です。
大企業が値上げをためらえば、そのしわ寄せは下請企業や生産者にいきます。
原材料価格の上昇を転嫁できない下請企業は、賃上げどころか人材の確保すら難しくなります。
そうした背景から、経産省や公正取引委員会も「適正な価格交渉の必要性」を繰り返し訴えています。つまり、適正な価格を受け入れ、それをきちんと伝えるということは、企業の社会的責任そのものでもあるのです。
値上げが必要だというのは、わかった。
でも、どうやって伝えるのか?──それが、皆さんの悩みではないでしょうか。
ここでは、「特別な商品」ではなく、ごく普通のプリンを題材に、値上げをどう伝えるかのヒントを考えてみたいと思います。
私たちは、プリンを“安いデザート”と捉えがちですが、実はこんな側面もあります。
こうして見てみると、プリンは「不可欠な贅沢」なのかもしれません。
だとすれば、その価値を守るための値上げは、「価格調整」というより生活の彩りを守る行動としてコミュニケーションすることができるのではないでしょうか。
1. ストーリーで伝える
価格改定の背景には、酪農家の努力、品質維持、工場の設備更新など、たくさんの“守るための行動”があります。
>例:「いつものプリンを、これからも変わらずお届けするために。品質はそのまま、想いもそのまま。」
2. “いつもの笑顔”を守るという視点
SNSや店頭メッセージで、「家族の笑顔を支えるプリン」であることを共有。
値上げの先にある“日常の景色”を思い起こしてもらう。
>例:「このプリンが、あなたの“ただいま”に寄り添えますように。」
3. 透明性ある情報開示
4. 「ありがとう」を忘れずに
たとえばパッケージにひと言添える。
>例:「変わらず選んでくださって、ありがとうございます。」
ちょっとした一言が、値上げの印象を変える力を持っています。
価格は、単に金額の話ではありません。
価値のバトンをつなぐためのもの、関係性を守るためのものです。
「安ければよい」という発想を少し手放してみる—―それは、サステナビリティの世界に身を置く私たちだからこそ、一層重要なのかもしれません。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:日経電子版「プリン5割高、洋菓子で突出 卵と牛乳のコスト高直撃 値札の経済学」(2025年6月17日)
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。