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投資家が創業家に注目する時代──「信頼される家族経営」に求められるガバナンスとは

ガバナンス / コーポレート・ガバナンス

「創業家が経営する企業」が注目されている理由とは?

最近、日経電子版に興味深い記事が掲載されました。“海外投資家が利益を上げたのは日本の「創業者株」”(2025年6月15日付)という記事です*1

この記事では、米国のファンド運用者が「創業者自身が経営している企業」に着目し、独自のインデックスを作って運用している様子が紹介されています。その結果、TOPIXなどの市場平均を大きく上回る収益を実現しているとのこと。

注目すべきは、「創業者=大株主であり経営者でもある」という企業が持つ特徴です。株主と経営者の目線が揃いやすく、経営判断も速く、長期志向での意思決定がしやすい──そんな企業が、投資家からは魅力的に映っているというわけです。

そして…

この投資家視点、実は、経済産業省が現在策定を進めている「ファミリー企業統治指針」の議論とも重なる部分があるように思います。

 

経産省が策定を進める「ファミリー企業統治指針」

経済産業省は2025年末までに「ファミリー企業統治指針」を策定する予定で、議論を進めています。

統治指針では、ファミリー企業における“良いガバナンス”とは何かを定義しようとしています。つまり、創業家の存在がもたらすスピードや一体感といった“良さ”を活かしつつ、不透明さや属人的判断といったリスクをどう回避するか。そのバランスを取る仕組みが、まさにいま模索されているのです。

日経の記事では、創業者経営企業はROE(自己資本利益率)も相対的に高い傾向があると紹介されており、「ファミリー企業=投資対象」としての可能性もあらためて示唆されていました。

創業家が価値を生む存在であるために、どんな“整え方”が必要なのか──今回のブログでは、ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会の 第1回(2025年3月)と第2回(2025年6月)の議論をもとに、その全体像をご紹介したいと思います。

 

なぜ今、経産省がファミリー企業の統治指針を作るのか

それにしても、なぜ今、経済産業省がファミリー企業の統治指針を作るのでしょう?

実はファミリー企業は、日本ではとても一般的な存在なのです。経済産業省の調査によれば、全国にある約9,000社の中堅企業のうち、その多くがファミリービジネスに該当するそうです。これらの企業の健全な成長を後押しすることで、日本経済を底上げしたい…という思いが、経産省にはあるようです。

ファミリー企業は、長期的な視点や迅速な意思決定といった強みがある一方で、「どこまでが家族の判断で、どこからが会社としての意思決定なのか」が曖昧になりやすいという声もあります。また、後継者選びがスムーズに進まず、事業承継が遅れてしまうこともあると言われます。

こうした課題を踏まえつつ、家族経営の良さを活かしながら、リスクを減らし、より開かれた経営へとつなげていこうというのが、この指針の目的です。

第1回と第2回──議論はどう進んだ?

第1回研究会では、ファミリー企業特有の課題が広く議論されました。特に、経営者の独善的な判断(いわゆるエントレンチメント)や、後継者の選定・育成が遅れがちな点が、企業の成長を阻む要因として指摘されました。

これを踏まえ、第2回研究会では、そうした課題に対する「具体的な対応策」を提示するフェーズへと議論が進みました。指針の中身が「基本項目」と「任意項目」に整理され、企業が実際に取り組みやすいよう構造化されたのが大きな進展です。

 

  • 基本項目としては、①経営の理念やビジョンを家族間で共有すること、②経営判断における公私混同の防止策を整えること、③事業承継の計画を明確にすることが挙げられました。
  • 任意項目としては、④家族で意思決定をするための仕組み(例えばファミリー評議会)を設けること、⑤取引先や従業員など、家族以外のステークホルダーにも情報を発信することが示されました。

これらを通じて、ファミリー企業の透明性を高め、持続的な成長を目指すことが期待されています。

 

海外事例が示す「憲章」と「評議会」の重要性

「ファミリー憲章」や「ファミリー評議会」なんて、そんなの大げさでは…?と思う方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、ファミリービジネスでありがちな場面のひとつに、「年末年始の親族会議が実質的な経営会議になってしまう」といったケースがあります。最初は雑談だったはずが、誰が次の社長か、誰がどの部門を担うかという話題になり、結局まとまらない──そんなことがファミリー企業では実際に起きたりします。

大企業のビジネスパーソンにとっては現実味のない話に感じられてしまうかもしれませんが、「意思決定の責任や権限があいまいなまま、“なんとなく”物事が進んでしまう」といった場面は、皆さまにもご経験がおありではないでしょうか。

ファミリービジネスでは、そのあいまいさが家族関係と絡み合うことで、より複雑で、かつ大きな問題が起きてしまいがち…と申し上げると、少し想像していただきやすくなるでしょうか。

 

こうした曖昧な意思決定を防ぐために、海外では「ファミリーガバナンス・コード」として制度化を進めている国もあります。たとえばドイツでは、ファミリー企業の経営を支えるために、オーナー家の役割や意思決定のプロセス、後継者選定の方針などが文書で明確にされています。

また、欧米では「ファミリー憲章」や「ファミリー評議会」を活用し、親族間の価値観を共有したうえで、経営への関与方針や資本の承継ルールを決めておく例も一般的です。

もちろん、こうした仕組みがあるからといって、すべてがスムーズにいくとは限りません。家族間で対立があったり、憲章があっても“空文化”してしまうケースもあります。

それでも、少なくとも“話し合う土台”や“納得を形成する型”があるかどうかで、経営と家族の関係性には大きな差が出てきます。

「創業家だからこそ企業を支えられる」という信頼。それをどう制度で支えるか──それこそが、ファミリービジネスが“強み”を活かすための条件なのかもしれません。

 

今後はどう動く?企業はどう対応すべき?

「ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会」は全4回実施され、4回目のあとに『ファミリーガバナンス規範』が公表される予定となっています。

 

第1回 『ファミリーガバナンス規範』を策定するうえでの、全体イメージ・方向性

第2回 『ファミリーガバナンス規範』の内容

第3回 『ファミリーガバナンス規範』の原案

第4回 ファミリーガバナンスの社会浸透に向けた課題・必要な事項

※必要に応じて、追加的な議論の要否を検討

 

第1回と第2回の間隔から考えると、次回(第3回)は9月頃の開催でしょうか。
その時には『ファミリーガバナンス規範』の原案が提示されるとのことで、ここでほぼ形が見えてきそうですね。

 

第1回・第2回の資料を拝読する限り、
現時点でわかるのは

 

  • 非上場でファミリーの経営関与が色濃く残る企業では、「経営と私生活の境界線を明確にするルール作り」や「ファミリーの役割や関与方針を文書で整理すること」が有効と言えそう
  • すでに創業家が経営から離れている企業では、「株主としての立場や発言のあり方をどう整えるか」や「企業と創業家の関係を社内外にどう説明するか」といった点がポイントになりそう

といったことぐらいですが、
本件、また進展や発見があればこのブログでもお伝えしていきたいと思います。

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1:本記事は、書籍『海外投資家はなぜ、日本に投資するのか(日経プレミアシリーズ)』からの抜粋とのことです。

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