ガバナンス / コーポレート・ガバナンス / 統合報告書
前回【第1弾】では、社外取締役に対する期待と、企業の現場とのあいだにあるギャップについて整理しました。
——監督者としての役割、戦略への関与、そして投資家との対話。
どれも重要である一方で、どれも「すぐに完璧にできる」ものではありません。
実際、社外取締役制度が本格的に拡充されてからまだ10年も経っていません。
いま、多くの企業が“形を整えた後”、ようやく“中身”を育てている最中なのです。
だからこそ、統合報告書で大切なのは、「完璧な状態」を見せることではなく、「現実を誠実に語ること」だと、私たちは考えます。
統合報告書の読者——特に機関投資家たちは、企業の未来を一緒に考えたいと思って読み込んでいます。
だからこそ、現時点でうまくできていないことについても、背景や改善意図を含めて丁寧に説明することが、むしろ好印象につながるのです。
たとえばこんな風に書けます。
監督機能がまだ十分でないと感じているなら…
現在、社外取締役による経営陣の評価や報酬決定への関与は制度上整備されていますが、その運用面での実効性には課題があると認識しています。今期から、評価プロセスの透明性向上や、社外取締役のみでの事前レビューの導入など、運用の質を高める取り組みを開始しました。
このように「現状→課題→改善への一歩」の3点セットで記述すると、読者に誠実な印象を与えることができます。
戦略への関与は、社外取締役の中でもとりわけハードルが高いテーマかもしれません。
なぜなら、事業の深い理解が求められ、日常的な情報共有や経営陣との関係性があってはじめて、意見が言えるようになるからです。
でも、それでも構いません。
社外取締役による戦略面での関与は、今後の強化課題と認識しています。今期より、経営会議の討議内容を事前に社外取締役に共有するしくみを整備し、取締役会での中長期戦略に関する議論を深めていけるよう準備を進めています。
→ 書くべきなのは、「まだ不十分」であること以上に、「どう向き合っているか」。一歩ずつ進んでいる姿勢が伝われば、それは十分に評価されます。
金融庁の調査(2025年6月)では、社外取締役と投資家の対話が「極めて限られている」ことが明らかになりました(出典:金融庁『スチュワードシップ活動の実態に関する調査』)。
一方で、投資家側からは「社外取締役にこそ会って話をしたい」という期待が高まっています。
つまりここには、やっていれば評価され、やっていなくても“これからやります”と書くことが誠実さにつながるという、絶好の機会があります。
これまで、社外取締役が投資家との対話に関与する機会は限定的でしたが、今後は、指名委員長および社外取締役を含む小規模な投資家向けミーティングを検討しています。投資家の視点を取締役会に届ける手段としての活用を模索してまいります。
ステップ | 書くべき内容 | ポイント |
---|---|---|
① 現状の到達点 | いま、どこまでできているか? | 数ではなく「どう機能しているか」に焦点を |
② 課題と背景 | 何が難しいのか?
なぜできていないのか? |
企業特有の事情があっていい。逃げずに書く |
③ 今後の取り組み | 何を変えようとしているのか? | 施策だけでなく、経営としての“覚悟”も添える |
社外取締役に関する開示は、投資家にとって「経営と対話できる会社かどうか」を見極めるための試金石です。
そして、対話とは「弱さを見せられる関係」でもあります。
だからこそ、できていないことを素直に書くことは、統合報告書の信頼性を高めるのです。
統合報告書は「正解を書く場所」ではありません。
経営のリアルと向き合い、「まだ途上だけれど、こう進んでいきます」と、投資家や社会に語りかけるための場所です。
社外取締役についても、どうか自信を持って、今の“ありのまま”を言葉にしてください。
それが、信頼と対話の第一歩になります。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。