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なぜ、社外取締役は“思ったほど機能していない”のか?──企業の現場と制度のあいだで【第1弾】

ガバナンス / コーポレート・ガバナンス / 統合報告書

はじめに:社外取締役への「期待」は高まった。では「現実」は?

この10年、日本企業のガバナンス改革は大きく進みました。
社外取締役の設置は、いまや上場企業では当たり前。
東京証券取引所のプライム市場に上場する企業のほぼすべてが、社外取締役を3分の1以上配置し、形式的な「体制」は整ったように見えます。

けれど、そんな社外取締役は、実際に“期待通りの働き”ができているのでしょうか?

 

「取締役会で戦略は議論されていない」
「投資家からの対話要請に、誰を出すか決められない」
「助言はしても、CEOの評価までは踏み込めていない」

 

そうした声が、いま、各所から聞こえてきています。

 

この【第1弾】では、社外取締役に対する期待と、企業側の実態とのあいだにある“ギャップ”を、経産省のガイドラインや2025年の金融庁調査結果をもとに、整理してみたいと思います。

 

社外取締役に求められている「3つの役割」

まずは原点から確認しておきましょう。

経済産業省の『社外取締役ガイドライン』(2020年)や、金融庁の『スチュワードシップ活動の実態に関する調査』(2025年6月)では、社外取締役には次のような役割が明確に期待されています。

一つ目は、経営陣──特に、社長・CEO──の人事や報酬に責任を持つ「監督者」であること。

二つ目は、中長期的な視野で経営戦略や事業ポートフォリオに関与する「知的パートナー」であること。

そして三つ目は、投資家との信頼ある対話を担う「企業の顔」であること。

 

たとえば、経産省のガイドラインではこう記されています:

社外取締役の最も重要な役割は、経営の監督である。

その中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価と、それに基づく指名・再任や報酬の決定を行うことであり、必要な場合には、社長・CEO の交代を主導することも含まれる。

出典:経済産業省『社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)』(2020年7月31日)第1章《心得1》

 

つまり、“経営の執行”から一歩引いた立場から、企業の持続的成長に責任を持つ、独立した意思決定の担い手としての存在が、いまの社外取締役に求められているのです。

 

けれど、企業の現場では

経済産業省や金融庁が掲げる理想とは裏腹に、企業の実態はどうでしょうか。

生命保険協会が実施した最新の調査(2024年度)によると、上場企業が社外取締役に期待する最も重要な役割として挙げたのは、「独立した客観的な立場での発言・行動」(72.7%)であり、次いで「経営執行に対する助言」(61.4%)でした。一方、制度上重要視されているはずの「経営陣の評価(選解任・報酬)への関与・助言」を挙げた企業はわずか28.0%、「投資家との対話」に至っては7.9%にとどまっています。

これらの数字が意味することは明確です。

多くの企業は社外取締役を「厳しい監督者」や「投資家との対話の担い手」としてではなく、「社内への良き助言者」や「外部視点の提供者」として位置づけている——つまり、経産省や投資家が求める“経営をチェックする存在”としての社外取締役と、企業側が想定する“外部からの良き助言者”としての社外取締役に、意識のズレがあるのです。

 

「戦略議論」と「対話の窓口」はどこへ?

この“ズレ”は、企業の戦略や投資家との関係にも影響しています。

本来、社外取締役は「社内にない視点を経営に注入する」役割を期待されており、とくに事業ポートフォリオの見直しや中長期的な成長戦略の議論にこそ、積極的に関与することが求められています。

事業再編ガイドラインや最新の調査(生命保険協会2024年度調査)によれば、多くの企業は取締役会の議題として「経営戦略立案」を重点的に取り上げるべきテーマとして認識しています(2024年度調査で約65.6%)。

その一方で、実際には戦略に関する取締役会の議論が十分な深度や頻度で行われているかについては課題を感じている企業が多く、議論の充実に向けた取組みを強化する必要性を示しています。

 

なぜ、このギャップは埋まらないのか?

一言でいえば、「制度の理想」と「企業の文化や現実」が、まだ噛み合っていないからです。

たとえば──

  • 取締役会が合議制で「和」を重んじる文化が根強く、厳しい異論を言いづらい

 

  • 社外取締役の多くが複数社を兼任しており、戦略議論に深く関与できる時間が限られている

 

  • 投資家と社外取締役の対話の場が制度として整備されていない(誰が主導するのかも曖昧)

 

これらは決して“誰かの怠慢”ではなく、日本企業の歴史や構造がもたらしている課題でもあります。

 

「完璧じゃない」からこそ、伝える価値がある

では、統合報告書でこうした“ギャップ”をどう扱えばいいのでしょうか?

答えはシンプルです。完璧ではないことを正直に示し、改善の姿勢を伝えることです。

社外取締役がどのような役割を担っており、何ができていて、何がまだ不十分なのか。
そして、それをどう受け止め、どこから変えようとしているのか──

それを「企業の姿勢」として丁寧に記述することで、統合報告書は単なる体制説明を超えた、企業の“対話の窓”として機能し始めます。

 

つづく【第2弾】:「できていない」ことを、どう書けば伝わるのか?

次回の【第2弾】では、今回の内容をふまえ、「統合報告書で社外取締役について“まだできていない”ことを書くには、どうすればいいのか?」というテーマを取り上げます。

できていないことを、信頼につなげる。
そんな記述のあり方を、ご一緒に考えてまいりましょう!

 

 

それではまた、次回のブログで。

執筆担当:川上 佳子


参考資料(抜粋)

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