前回は「データを提供する立場」としてのESG視点を整理しましたが、今回はその逆。
御社が、他社や行政からデータを受け取って活用する立場になったとしたら──
環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点で、どのような責任とチャンスが生まれるのでしょうか?
データを活用することで、どんな環境的な価値を創出できるか──この視点は、サステナビリティ担当者にとって重要です。
たとえば、他社から提供されたエネルギー使用実績や交通量データを分析することで、以下のような改善が実現することがあります。
・工場やオフィスの稼働の最適化による省エネ
・物流の効率化による燃料使用量の削減とCO₂排出削減
・都市インフラの見直しによる渋滞・排ガスの低減
こうした“データ起点の環境改善”を社内施策やサービスに反映できれば、それ自体が企業の環境コミットメントを裏付ける要素になります。
また、見落とされがちなのが「活用そのものの環境負荷」です。特にAIや機械学習による大量データの解析は、電力消費の多いプロセスでもあります。クラウドの電源構成や、アルゴリズムの効率性、使用時間の最適化なども含めて、「環境にやさしい分析の仕方」が求められます。
つまり、データを活用する立場としては、「どんな環境価値を引き出すか」と「そのための手段がサステナブルか」をセットで考えることが、これからの基本になるのではないでしょうか。
データの受け取りと活用において、最もデリケートなのが「個人データを含む分析」の場面です。
受け取った情報がどのように収集・加工されたものなのかを確認し、再識別の可能性がないか、バイアスや差別につながる危険性がないかを慎重に見極めましょう。
たとえば──
・AIモデルの学習データに偏りがないか?
・特定の属性(年齢、性別、国籍など)に不利な判断を導いていないか?
・本人が想定しない形で分析結果が使われていないか?
これらはすべて、企業の“社会的信頼”に直結する要素です。
透明性ある説明や、活用目的の明示、定期的な見直しを通じて、「そのデータ、誰のために、どう使っているのか?」という問いに答えられる状態を保つことが重要です(難しいことではありますが…)。
データを「受け取るだけ」なら責任は軽い──というわけにはいきません。
むしろ、他社や行政から預かったデータであるからこそ、その取り扱いには厳密なガバナンスが求められます。
・アクセス制限とログ管理
・提供元との契約順守(目的外利用の禁止、再提供の制限)
・インシデント発生時の報告義務と対応体制
また、社内では活用の方針やルール、倫理指針を共有し、担当者だけでなく関係部門全体に意識づけを行うことも必要です。
一度でも「データの扱いが杜撰だった」という印象を持たれてしまえば、将来的な連携機会を失うリスクにもなりかねない点には注意が必要です。
3回にわたって、データ利活用制度の整備に関連し、提供する側・活用する側それぞれの立場で、サステナビリティ担当者が押さえておきたい視点を整理してきました。
この第3回のまとめとして、あえて一言にするならば──
「活用するからこそ、丁寧に扱う」
それが、これからのデータ社会における信頼と価値創出の原則ではないでしょうか。
制度の整備が進む中で、企業の姿勢もまた問われていきます。
みなさんの企業が、「データをどう扱うか」で選ばれる存在となるよう、引き続きともに考えていければと思います。
それではまた、次回のブログでお会いしましょう。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。