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【連載】データ利活用とESG 第2回(提供編) データ提供で問われる企業の責任とは──Suica以後のESGとガバナンスを考える

DX / ガバナンス / リスクマネジメント

データを「出す側」になるとき、気をつけたいこと

前回は、「データ利活用制度が先行する今、サステナビリティ担当者として何を注視すべきか?」という視点で、全体像を整理しました。

今回は少し視点を変えて──

御社が、これから「データを提供する立場」になるとしたら?
どんなことに気をつける必要があるでしょうか。

 

政府は、分野横断的なデータ共有を推進する方針を打ち出しており、自社の保有するデータが他社や自治体との連携に活用される機会が増える可能性があります。

そのときに押さえておきたいポイントを、環境・社会・ガバナンス(ESG)それぞれの視点から考えていきます。

 

1. 環境(Environment)──提供するデータが生む“環境価値”も視野に

データを提供するためには、当然ながらそれを保存・処理・転送するためのITインフラが不可欠です。
その基盤となるデータセンターやクラウドサーバーの運用には、膨大な電力や冷却装置が必要であり、その結果として温室効果ガスの排出や水資源の消費といった形で、目に見えにくい環境負荷が発生します。

そのため、再エネ電源の導入や高効率なサーバ設計、使用率の最適化などに取り組むことは、データを「出す側」にとっても避けられない環境責任といえるでしょう。

さらに、提供するデータそのものが環境課題の可視化や解決につながる場合もあります。たとえば、交通系の移動データが渋滞緩和やCO₂排出量削減に活用されたり、エネルギー使用パターンのデータが再エネの導入最適化に役立つといったケースです。

こうした「提供することで社会に還元される環境価値」については、社外への説明において積極的に語っていくべきでしょう。それが、単なるリスク管理ではなく、ポジティブなESGコミュニケーションへとつながります。

 

2. 社会(Social)──Suicaの教訓から学ぶ「信頼」のつくりかた

「データを提供する」と聞いて、読者のみなさんの中には、JR東日本のSuicaデータ提供の一件を思い出された方もいるかもしれません。

2013年、JR東日本がSuicaの利用データを匿名化したうえで第三者に提供しようとした際、事前の説明や同意取得が不十分だったことで、社会的な批判が集中しました(注:匿名化方法や提供範囲の説明が不足していたことから、利用者の信頼を損なう結果となりました)。

この教訓から学べることは、「透明性」です。

どんなデータを、どのような目的で、誰に提供するのか──そうした情報を丁寧に開示し、利用者や社会からの信頼を得るための努力が欠かせません。

 

また、提供先での利用が差別や偏見の助長につながらないよう、契約や利用条件を通じて明確な制限を設けることも重要です。

 

3. ガバナンス(Governance)──組織としての責任体制を整える

データ提供は、一部門だけで完結する話ではありません。提供データの性質によっては、全社的な統制体制が不可欠になります。

 

プライバシー影響評価(PIA)の実施):個人情報保護委員会のガイドラインやISO/IEC 29134に準拠し、データ提供前にリスクの特定・緩和策を検討します。

 

匿名化・集計レベルの妥当性確認:匿名加工情報や仮名加工情報の要件に照らし、復元困難性や識別不能性の観点から適切に加工されているかを検証します。

 

Chief Data Officer(CDO)やデータスチュワードの設置:部門横断でデータの品質と適正利用を担保する責任者を明確にし、データライフサイクル全体を統括できる体制を整備します。

 

第三者委員会や社内審査プロセスの構築:学術・医療・官民連携など社会的影響の大きい領域では、社外有識者を含む「倫理審査会(Ethics Board)」の設置も検討に値します。

こうした体制整備が、ガバナンスとして必要です。

提供後も、誤用や漏洩が起きていないかをモニタリングし、問題が発生した場合には速やかに公表・対応できる仕組みを整えておくことで、企業としての信頼を維持できます。

 

まとめ:リスクだけでなく、価値も見据える

データ提供には、たしかにリスクが伴います。

けれどもその一方で、提供したデータが社会課題の解決や、他社との共創に活かされることで、自社の存在意義(パーパス)を発信するチャンスにもなりえます。

 

次回の第3回では、自社がデータを「受け取る側=活用する側」になったときに、どんな視点で責任を果たすべきかを見ていきます。

 

それではまた次回のブログでお会いしましょう。

執筆担当:川上 佳子

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