6月に政府がまとめる予定の「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」。
医療や教育、金融、産業など、分野をまたいでデータを活用できる新たな仕組みが模索されています。
この基本方針は、サステナビリティやガバナンスに関心のある方にとっても、決して他人事ではありません。
なぜなら、「データの取り扱い」は、いまやESGの“実践の場”になりつつあるからです。
たとえば、従業員データの活用が人的資本経営の根幹となっているように、今後は生活者や取引先のデータも含めた「関係者との接点データ」が企業の信頼性や説明責任に大きく関わってくるようになるでしょう。どのような設計思想で、どんなプロセスを経て活用されているのか。その丁寧な説明と実行が求められます。
本記事では、制度の動きを踏まえつつ、サステナビリティ担当者さまが考えておきたいポイントを3つに整理いたします。
まず押さえたいのは、6月に発表される「基本方針」の中身です。制度がどのように設計されるかによって、企業に求められる対応も変わってきます。プライバシー保護とデータ活用のバランスがどのように調整されるのか。特に匿名化、同意、二次利用の取り扱いには要注目です。
すでに一部の分野では、「本人の同意に依存しない仕組み」や「安全な共有インフラ」を前提としたデータ連携構想が検討されており、業界横断的な枠組みが現実味を帯びてきています。こうした制度の枠組みができたとき、自社はどのような役割を果たすのかを今のうちから整理しておくことが重要です。
データを活用すること自体が、企業の社会的責任と直結する時代になってきました。たとえば「誰の、どんなデータを、どう使うか」が問われたときに、説明責任を果たせるかどうか。透明性、目的限定性、そして人権への配慮といった視点が、ESG評価にも大きく影響してきます。
たとえば、個人が意図しない形でデータが利活用された場合、企業への不信感は一気に高まります。技術的な安全性の担保に加え、情報を開示し、使い方を説明し、社会との合意を丁寧に形成していくこと。それが“使えるけれど信頼されない”という事態を防ぐ鍵になります。
過去には、JR東日本によるSuicaデータの提供が、説明不足から批判を受けた例もありました。一方、交通渋滞の緩和や健康増進に活用された好事例もあります。サステナビリティ担当者としては、こうした実例を踏まえ、自社の方針設計に活かす視点が求められます。
今後の制度設計や社会の受け止め方に関心を持ち続けることはもちろん、自社の過去のデータ活用・提供履歴を棚卸し、どこに改善の余地があるかを見直してみるのもおすすめです。
今回は、「制度が先行する中で、どこを注視すべきか」というマクロな視点から整理しました。
次回は、より実務に近いテーマとして「自社がデータ提供企業になる場合、ESGのどこに注意すべきか?」を掘り下げていきます。
それではまた、次回のブログでお会いしましょう!
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。