一見まったく異なるニュースに、共通点を見つけてハッとする瞬間があります。
最近でいうと、
の2つが、ジャンルもターゲットもまったく違うように見えますが、実はどちらも同じ問いを私たちに投げかけているように思えます。
その問いとは…
「本当に届けたい人に、ちゃんと届いているのか?」
今回のブログは、この問いを入り口に、サステナビリティの観点からこの2つのニュースについて考えてみたいと思います。
まずは任天堂さん(以下、敬称略)の事例から見てみましょう。
任天堂がSwitch 2の発売に向けて注力しているのは、転売防止です。
購入制限、抽選販売、本人確認…。一見、流通の話のようですが、その根底には「本来のユーザーに届けたい」という強い意志が見えます。
実は同社は、「任天堂IPに触れる人口の拡大」を基本戦略に掲げています。
ゲーム機を単なる「モノ」ではなく、自社IP(知的財産)との出会いの入り口と位置づけている任天堂にとって、転売防止とは、ファンでもない人の手にゲーム機がわたったり、価格がつり上がって購入できない人が出てきたりすることで、「任天堂IPに触れる人口の拡大」ができなくなることを避けたいのではと思われます。
一方、もうひとつの事例──政府が行った「備蓄米の一般向け販売」も現在、注目を集めています。
農林水産省は2025年5月、米価高騰を受けて家計負担の軽減を目的とし、政府備蓄米を5kgあたり税抜約2000円(店頭想定税込2160円前後)で大手小売に売り渡す方針を打ち出しました。
価格が(現在の店頭価格の)半値近くに抑えられるとの報道に対し、SNSやメディア上では「買い占めが起こるのでは?」「転売の対象になってしまうのではないか」といった懸念の声が広がりました。
メルカリやYahoo!オークションなど主要フリマ/オークションサイトは5月28〜29日に備蓄米の出品禁止を発表していましたが、本来支援対象となる生活者に届かなくなる可能性が問題視されています。
サステナビリティの本質は、企業が社会との持続的な関係性をどう築くかということ。その意味で、企業として提供する価値が「本当に必要な人にきちんと届いているか」は重要な前提となります。
ここで重要になってくるのが「届け方」です。製品やサービスを「届ける」とは、単に提供することだけを指すのではありません。具体的には以下のような側面があります。
「届け方」を誤ると、次のようなサステナビリティ上の問題が発生します。
不適切な届け方 | サステナビリティ上の具体的問題 |
---|---|
転売や買い占めが起きる | 本当に必要な顧客や生活者に商品が届かない → 社会的な公平性の損失 |
価格の乱高下や品薄を招く | ブランドへの信頼低下や顧客離れを引き起こす → 中長期のブランド価値の毀損 |
適正価格で届けられない | 製品やサービスが本来の目的や理念を失い、企業の社会的価値や存在意義が問われる |
つまり、製品やサービスを「本来届けるべき相手に適切に届ける」ということ自体が、企業の信頼やブランド価値、社会的公平性を守るためのサステナビリティ施策なのです。
任天堂のSwitch 2や政府の備蓄米は、異なる分野の話ではありますが、共通する課題は「届け方」を通じて、企業や組織が社会との関係性を持続可能にできるかどうかという点にあると私は考えます。
任天堂は、ユーザーとの信頼を長く育むことを重視してきた企業です。
その視点から、転売防止は単なるオペレーションの問題ではなく、ブランドの持続可能性を守るための戦略です。
例えば:
これらはすべて、「信頼に基づく届け方」を形にした取り組みです。
一方の備蓄米では、「価格設定」と「ルートの開放性」によって転売されるリスクがあると指摘されました。
備蓄米の件は、「善意の提供」であっても設計を誤ると社会的公正性が損なわれてしまうという教訓を与えてくれます。(もちろん、そのような事態が起きないことを願ってはおりますが…)
2つの事例から、サステナビリティの現場で生かせる視点を整理してみましょう。
観点 | 自社で問い直すべきこと |
---|---|
ターゲット | 私たちは“誰に”届けたいのか? |
仕組み | その人に届く流通・価格・接点になっているか? |
信頼 | 一時的な売上ではなく、長期的な関係性を築けているか? |
任天堂のゲーム機も、備蓄米も、
本当の価値は、届けたい人にきちんと届いたときに発揮されます。
届けたい人に価値を届けること——
それはサステナビリティの、そして価値創造の出発点です。
御社の“届け先”は、どんな人たちですか?
その人たちに、価値はきちんと届いているでしょうか。
本日のブログが、そんなことを考えるきっかけのひとつになりましたら幸いです。
今週もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。