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株価と開示の「その先」へ──コーポレート・ガバナンス白書2025を読み解く3つのポイント

ガバナンス / コーポレート・ガバナンス / 統合報告書

2025年4月、東京証券取引所から「コーポレート・ガバナンス白書2025」が発行されました。

今回のブログでは、2023年版との違いに注目しながら、IR担当者やサステナビリティ担当者の皆さまが「今、何を求められているのか」を、特に気になった3つのポイントで整理してみたいと思います。

1. 「株価を意識した経営」が、ついに章タイトルに

白書2025では、構成上の大きな変化として、第2章が「資本コストや株価を意識した経営など」と明示されました。これは、2023年版までの「事業ポートフォリオの見直し・資本コスト関係」からの変更です。

これまでの「資本コストを上回る経営を」と言われていた段階から一歩進み、「PBRや株価そのものを意識する経営」へのシフトが、構成上からも強く示された形です*1

東証が2023年3月に出した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応のお願い」にも後押しされ、多くの企業でこのテーマが経営課題として検討されてきた2年を経て、今このタイトルになったと考えるべきでしょう。

 

2. 実効性の時代へ──取締役会評価とスキルマトリクスの進化

2025年版では、取締役会の「実効性評価」に関する項目が深化しています。

両年版とも補充原則4-11③に基づく取締役会評価の実施状況を分析していますが、評価項目の内容に変化が見られます。2023年版では、多くの企業が評価項目に「取締役会の運営」「構成」「審議状況」等を挙げ、少数ながら「リスク管理」「ESG・サステナビリティ」「グループガバナンス」等も含めると述べられていました。2025年版ではさらに一歩進み、「IR・SR(株主との対話)」や「株価・資本コスト」に言及する企業も現れたと報告されています。

また、前年度の課題への対応状況をレビューする企業が出てきたことは2023年版から触れられていましたが、取締役会評価を戦略や資本市場対応と結び付ける動きが2025年版ではより明確です。

 

2023年版ではCGコード改訂(2021年)を受けて取締役のスキルマトリクス開示状況の分析が始まった段階でした。2023年版では「特定したスキルの類型」「スキルの個数」など、主にTOPIX500企業のスキルマトリクス開示状況が図表で示されていましたが、2025年版ではこの分析がさらに進み、プライム市場全体でのスキル・属性の分析が行われています。

 

3.持ち合い解消と親子上場──いま注目されている資本構造の課題

資本関係やグループガバナンスについては、近年の改革を反映して2025年版で情報がより深化しています。政策保有株式(いわゆる持ち合い株)の縮減や親子上場の解消に向けた動向が、データとともに詳述されています。

政策保有株式の縮減と開示については、2025年版ではさらに踏み込み、具体的な削減目標や実績を開示する企業事例が紹介されています。例えば、ある企業では「2023年度から3年間で取得原価ベース1,500億円削減」との目標を掲げ、初年度に793億円削減し72社で持ち合い解消を達成したことを明記しています。また他社事例でも「原則保有しない方針」への転換や、保有合理性のハードルレート公表等の取組みが列挙されており、持ち合い株解消への圧力が一層具体化・数値化された印象です。

 

親子上場の解消動向については、2025年版では「親子上場をめぐる動向」という節の内容が深化し、市場区分別の親子上場企業比率の推移に言及しています。近年、資本効率向上のための株式売出しや事業再編、親子上場解消の動きが相次ぎ、親会社を有する上場会社の割合は減少したと記されています。

2023年版でも親子上場企業数の話題はありましたが、「研究会報告」紹介に留まり具体的な減少実績データは多くありませんでした。2025年版は市場の厳しい目にも触れ「ここ数年、親子上場への株式市場の目線はさらに厳しくなっている」と明言しており、親子上場問題が企業価値向上・少数株主保護の観点から顕在化してきたことを示しています。

 

少数株主保護・グループガバナンスについては、2025年版では、少数株主保護策について補充原則4-8③(支配株主がいる場合のガバナンス強化)が章立てで取り上げられ、親子上場企業の情報開示充実(少数株主保護やグループ経営方針の開示)がどの程度進んでいるか分析が加わっています。さらにコラムでは投資家の視点から親子上場問題を論じる内容が登場し、少数株主から見たグループガバナンスへの期待・懸念がフィードバックされています。

総じて2025年版は、親子上場を含むグループ内ガバナンスを「改善すべき課題」と位置付け、企業行動の変化と残課題を示す構成となっていると感じました。

 

おわりに:開示の次へ、対話のその先へ

ガバナンス白書の進化は、単なる調査データの更新ではありません。市場が企業に求める「語るべきこと」が、年々具体化していることを示しています。

IRやサステナビリティの担当者として、これらの「変化の兆し」を正しく読み取り、自社の開示・対話にどう活かすか。ガバナンス白書はそのための良質なチェックリストであり、ヒント集です。

当社の場合はどう活用すれば?など、お困りのことがあれば、お気軽に当社へご相談ください。

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上佳子


*1 PBR・ROE改善への取組み: 2025年版では、取締役会の実効性評価項目などに「株価及び資本コスト関連(株価、資本コスト、PBR)」を含める企業が5.7%(149社)存在するとの分析が示され、経営評価においても株価指標を重視し始めた企業の増加がデータで示されています。一方、2023年版ではPBRに直接言及する箇所は見当たらず、資本コスト意識が主なテーマでした。2025年版の方が、低PBR問題やROE水準向上への言及が増えており、「株価=市場からの評価」を経営課題として捉える傾向が顕著です。

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