SusTB communications サスティービー・コミュニケーションズ株式会社

未来に響くコミュニケーションレポートの企画・制作×コンサルティング

HINTサステナ情報のヒント

有価証券報告書の「総会前開示」は機会か負担か― 今、知っておきたい議論の現在地と実務上の論点

有価証券報告書 / 開示媒体

2025年に入り、有価証券報告書(以下、有報)の「総会前開示」をめぐる制度改革の議論が加速しています。

金融庁ではすでに関係機関を集めた協議会が立ち上がり、6月には報告書の取りまとめが予定されています。

では、こうした動きがIR担当者やサステナビリティ担当者にとって、どんな意味を持つのでしょうか?

今回のブログでは、議論の現在地と、企業の立場から見た「賛否の論点」を分かりやすく整理しながら、この動きを“機会”として捉える視点もあわせてご紹介します。

 

そもそもなぜ今、総会前に有報を出すべきと言われているのか?

背景にあるのは、グローバル投資家の声です。

欧米では年次報告書を株主総会前に開示するのが一般的で、日本でも「財務・サステナビリティ両面の重要情報を総会前に一括で把握できるようにしてほしい」との要請が強まっています。

2025年3月には加藤金融担当大臣が「前向きな検討を」と公式に表明しました。企業としても、これを単なる“行政のお願い”ではなく、開示戦略や対話のあり方を再設計する機会と捉えるのが良さそうです。

 

議論の構図:やることは賛成。でも、やり方がネック

今回の議論で目指されているのは、単なる制度改正ではなく、「投資家との対話をより建設的にする環境整備」です。

 

その目的については賛否を問わず共有されていますが、問題は「どうやってそれを実現するか」。

企業と投資家の間では、具体的な手法やタイミングについて意見が大きく分かれています。

 

主な論点と企業の視点
論点 投資家側の主張(賛成) 企業側の懸念(慎重)
① 投資判断の充実 有報が総会資料として使えることで議決権行使の質が向上。 IR説明会や短信で情報は提供済み。形式上の負担に意味はあるか?
② 海外との整合性 国際基準に合わせて信頼性を高めたい。 株主総会の制度設計が違う中で形式だけ合わせても機能しない。
③ 書類の統合・簡素化(ただし実務影響には賛否) 有報を事業報告や計算書類と統合することで閲覧効率が上がる、という指摘あり。(ただし企業実務の現場からは「かえって負担が増える」との懸念も根強く、統合の設計次第で効果は大きく変わると見られている) 有報に会社法の責任が加わると、監査負担や記載責任が増える。

 

④ 総会時期の見直し 保証付きサステナ情報が普及する中、総会の7月以降移行が自然。 基準日・配当の実務が複雑に。日程変更はコスト・混乱要因に。
⑤ 実務負担の増加 四半期短信の任意化などとパッケージで進めることで、トータルの開示負担が相殺できる可能性があると指摘。(ただし、企業ごとに実務のインパクトは異なるため、一律には評価できないという意見も) 有報が年々分厚くなっている中で、さらに前倒しは現実的でない。

 

ご担当者さまがおさえておきたい3つのポイント

1. 「今すぐ始めろ」と言われているわけではない。ただし方向性は見えてきた

政府は“検討要請”という形で企業に考えるきっかけを与えています。

ただし今後、コーポレートガバナンス・コード改訂や東証からの要請へと展開する可能性が高く、「動き始める企業」と「様子見に留まる企業」で将来的な差が開くことも考えられます。

2. 実務的な準備には「統合設計」がカギを握る

開示前倒しの実現には、有報と事業報告の一本化、EDINETフォーマットの柔軟化、内部統制・監査範囲の明確化といった制度横断的な改革が必要になります。

「制度が変わったから対応する」ではなく、「自社にとって実効的な統合・開示の在り方を、制度動向を見据えつつ設計しておく」ことが望まれます。

3. サステナビリティ情報との整合も意識を

財務と非財務情報を一体で語る「統合報告」の重要性が高まる中、有報前倒しは、単なる負担ではなく、開示体制・ストーリー設計の“リデザイン”の機会でもあります。

今後のサステナ情報の保証制度を見据えたとき、情報をどう一体化し、誰のために届けるのかを戦略的に見直す機会ととらえることもできます。

 

最後に:本格的な制度変更の前に、いまできることを

金融庁の協議会では、6月に報告書が取りまとめられる予定です。

そこでは、ロードマップや企業負担への支援策が示される見込みであり、企業側の声を踏まえた現実的な落とし所が模索されつつあります。

制度改正はすぐには来ません。けれども、“開示のあり方”が中長期で問われる流れは、確実に始まっています。

「機会として動く」か、「負担として備える」か──その分かれ道は、まさに今かもしれません。開示を担当されている皆さまも、ぜひ社内での共有や、将来を見据えた初期的な議論から始めてみていただくことをおすすめいたします。

 

ーーー

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


参考資料:

(1) 金融庁ホームページ 「有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備に関する連絡協議会」(第2回)議事要旨

(2) 日本経済団体連合会「有価証券報告書の株主総会前開示について~投資家に対する有用で効率的な情報提供に向けて~」(2025年5月13日)

記事一覧へ