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【企業価値向上の最前線】投資家とのギャップを埋める統合報告書~今すぐできる3つの改善ポイント~

価値創造ストーリー / 勉強用(初学者様向け) / 統合報告書

「統合報告書を作っているのだが、本当に投資家の期待に応えられているのだろうか?」

これは企業の統合報告書制作担当者さまからよくお聞きする悩みですが、

生命保険協会が2024年度に実施したアンケート(2025年4月18日発表)では、企業と投資家との間に明確な「ギャップ」が浮き彫りになりました。

今回の記事では、その調査結果をもとに、統合報告書制作担当者様が特に注力すべき重要な3つの改善ポイントを解説します。

 

ポイント1:「取締役会の質」は具体的に見える化を

投資家は企業以上に取締役会の実効性を重視しています。

「実効性評価」だけでなく、スキルマトリクス*1や独立社外取締役の専門領域、議題別の審議時間*2など、具体的な数値と事例を盛り込むことで、説得力がぐっと高まります。

 

*1:スキルマトリクスについて

 

スキルマトリクスを単なる「形式的」な情報開示にせず、「実質的な取締役会の質」を示すための強力なツールと有効な情報として機能させるには、以下のようなポイントが必要と考えます。

 

1. スキル定義明確

  • 戦略立案」「リスク管理」「財務会計」といった抽象すぎる分類ではなく、自社固有戦略課題基づくスキル定義する(例:「海外事業展開経験(特にアジア圏)」や「DX推進経験」など)。

2. 評価客観根拠

  • 取締役なぜそのスキルっている評価か、その根拠なる経験・実績併記する。

  • 社外取締役専門領域について特に、肩書き具体プロジェクト実績、あるいは主要成果注記する。

     

3. マトクス戦略活用

  • スキルマトクス作成しただけわらず、取締役メンバー選定プロセス(選任理由)今後取締役構成見直し、後継計画、ボード教育具体連動させる。

 

*2:議題別の審議時間について

 

「議題別の審議時間」を提唱する理由は、投資家が取締役会の「実効性」を判断する際に、「議論の密度と重要性」が見える具体的な指標として機能するからです。

 

多くの場合、投資家は「取締役会がどれだけ本質的で実効的な議論をしているか」を判断しにくい状況にあります。しかし、審議時間を議題別に示すことで、

 

- 経営戦略、リスク管理、投資決定といった重要課題にどの程度の時間を割いているのか

- 対応が形式的ではなく、実質的な議論に基づいているのか

を客観的に確認することが可能になります。結果として、投資家が抱える「取締役会は本当に機能しているのか?」という疑念を払拭し、信頼関係の強化につながります。

※なお、取締役会の議題別審議時間割合を開示している事例は、2025年4月30日に発表された『「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)別添 企業事例集』に掲載されています。

 

ポイント2:KPIは「ROIC・WACC・FCF」が決め手

調査によると、投資家は従来の指標であるROE(自己資本利益率)や売上高などの成長指標だけでは満足せず、より資本効率に関する具体的な指標であるROIC(投下資本利益率)とWACC(加重平均資本コスト)の差異や、企業が実際に生み出すことのできる現金を示すフリーキャッシュフロー(FCF)を強く重視しています。

ROICを使っていない企業でROEを中心に説明する場合には、自己資本コストとの比較を明確にし、ROEが自己資本コストを十分に上回ることを示すことで、投資家に対して資本効率への配慮を伝えることができます。

また、FCFを重視するということは、単なる会計上の利益ではなく、実際のキャッシュフローに基づいた財務的な視点を強調することになります。

統合報告書において資本コストを明確に示し、ROICがWACCを上回る(資本コストを超えた利益を創出している)ことは基本的な目標ではありますが、あえて明示することで投資家は企業が資本効率を常に意識し、それを経営の中心に置いているという安心感を得ることができます。

さらに、資本効率の高さが単なる目標ではなく実際に達成されているという客観的な証拠を提供することになり、結果として投資家からの信頼と評価が一層高まります。

 

ポイント3:ESG・人的資本は「シングル×ダブルマテリアリティのバランス」を意識

投資家が特に重視しているのは「シングルマテリアリティ」、すなわち企業の財務状況に直結するESGや人的資本の要素です。

一方、企業としては規制対応や他のサステナビリティ開示基準との整合性をとるため、また、企業としての取り組みの全体像を示すため、環境や社会への影響を含めた「ダブルマテリアリティ」的な情報も開示されることが一般的です。

ここで重要なのは、そのバランスをどう取るかということです。

具体的には、ESG関連の指標を設定する際、シングルマテリアリティの視点から財務的なインパクトが明確な要素、例えば「健康経営の推進による医療費や欠勤率の具体的な削減額」や、「製品安全性の強化によるリコール対応コストや法的リスクの具体的な低下」などの具体的な金額や割合を提示することが効果的でしょう。

同時に、ダブルマテリアリティとして必要な要素(例えば「地域コミュニティの生活向上や環境保全活動を通じた生物多様性保護」や「地域社会への貢献活動が将来的な事業リスクをどう軽減するか」など)は、企業の長期的な持続性に寄与する形で明確に関連づけ、財務への影響を定性的かつ戦略的に説明することで説得力を高めます。

これにより、投資家には企業価値向上への具体的な貢献を明示でき、規制やステークホルダーには十分な説明責任を果たすことが可能になると考えます。

 

統合報告書の価値は「財務への影響を軸にした物語×具体的な数字×透明な検証プロセス」にあり

統合報告書の制作は、企業が抱える規制やステークホルダーとのバランスを取りつつ、投資家が特に気にする財務に直結した情報を明確に伝えることで、「認識ギャップ」を具体的に埋めるプロセスです。ここに挙げた3つのポイントを通じて、財務とサステナビリティ両面での説得力を高め、投資家との信頼関係をさらに深めませんか?

「改善の具体的な方法を相談したい」「もっと投資家目線で統合報告書を作りたい」というご要望がありましたら、私たちにお気軽にお問い合わせください。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

 

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