ガバナンス / コーポレート・ガバナンス / 勉強用(初学者様向け)
2025年5月8日、NTTがNTTデータを完全子会社化し、グループ全体で「親子上場ゼロ」となる方針を発表しました。
ご参考:
NTT、データG完全子会社化まとめ読み 総合IT企業に脱皮(日経電子版、2025年5月11日)
このニュース、「自社にはどう影響するのかがわからない」「これは経営判断だから、自分が関与する話ではない」と感じた方いらっしゃるかもしれません。
ですが、本件はIRやサステナビリティの担当者様に、いま目を向けておいていただきたいテーマであると私は考えております。
なぜなら、こうした企業再編の動きが、社内での対話や説明責任のかたちを変え始めているからです。
「親子上場」とは、親会社とその子会社が、ともに上場している状態を指します。
かつてのNTTグループのように、親会社が6割ほどの株式を保有し、残りを市場で流通させるという構造が典型例です。
NTTは1990年代以降、NTTドコモ・NTTデータなどを上場させることで資金調達や事業拡大を図ってきました。
NTTはこれまで、親子上場の“象徴的存在”でした。
年 | 出来事 |
---|---|
1995年 | NTTデータが東証2部に上場 |
1998年 | NTTドコモが上場(当時、国内最大のIPO) |
2020年 | NTTドコモを完全子会社化(4.25兆円TOB) |
2025年 | NTTデータのTOB(約2.3兆円、プレミアム30〜40%)を発表予定 |
そのNTTが、親子上場をすべて解消するという決断を下したのです。
これは、単なる経営判断ではなく、市場にとって「常識が変わった」というメッセージとして受け止められてもおかしくはありません。
時期 | 出来事 | 影響 |
---|---|---|
2000年代前半 | 東証・金融庁が「少数株主保護」を強調 | 一部上場企業が親子再編へ |
2015〜20年 | コーポレートガバナンス・コード制定 | 日立が上場子会社22社→3社へ |
2020年 | ドコモTOB(4.25兆円) | 「規模が理由でできない」は通用しなくなる |
2025年 | NTTデータのTOB(予定) | 市場構造がさらに“ゼロ化”へ? |
東証は、2025年にコーポレートガバナンス・コードの改訂を検討中です。
その中で、「親子上場の開示や対応方針の明確化」などが盛り込まれる可能性があります。
NTTがこの動きに先んじて対応したことは、「NTTでもできた。御社は?」という空気を生み出す可能性があります。
NTTは、非支配株主持分の解消でEPS(1株あたり利益)が増加すると説明。
この効果はPBR改善要請(=資本の効率的運用)とロジックが一致しており、「資本効率を上げるなら親子上場は非効率」と見なされやすくなっています。
ドコモのTOBでは株価が大幅上昇。今回のNTTデータでも30〜40%のプレミアムが報道されています。
こうした「TOBは株主にとってお得」という構図が定着すると、アクティビストが提案しやすくなります。
次のような特徴を持つ企業には、投資家や市場からの注目が高まりやすくなっていると言えそうです。
もちろん、企業のIR担当者さま・サステナビリティ担当者さまは、親子上場そのものの判断を行うわけではありません。ですが、「なぜ残しているのか?」「解消したらどんな影響があるのか?」といった問いに対して、部門内で対話を始められる状態をつくっておくことは、現場としてできる大事な準備です。
今、できることとして、たとえば下記などがあるのではないでしょうか。
「親子上場」に関する上述のような“圧力”は、今注目されているもうひとつの資本構造——「政策保有株式(いわゆる持ち合い株)」にも、資本の効率性や透明性の観点から一層の説明を迫る可能性がある点に注意が必要と、私は考えております。
2025年のコーポレートガバナンス・コード改訂では、親子上場だけでなく政策保有株式の縮減や合理性の開示も引き続き要請される見通しです。東証の最新資料でも、「資本コストや株価を意識した経営」「資本の使い方の見直し」が重ねて強調されており、政策保有株式はその文脈に深く関わっています。
たとえば、政策保有株を売却することで得られた資金を自己株取得や成長投資に振り向ければ、ROEやPBRの改善につながることが期待できます。このロジックは親子上場と非常に似ています。
(アクティビストや機関投資家からの「使われていない資本があるなら、有効に使ってほしい」という提案がなされるケースが増えているのがご承知のとおりです)
たとえば、地銀や総合商社の中には、持ち合い株を縮減し、その売却益で株主還元や成長投資を強化した企業が、株価評価を高めている例もあります。
市場がそうした事例を「前向き」と受け止めるようになっている今、「親子上場の解消だけでなく、政策保有株式の見直しも資本効率の一環として扱われる」時代に入っているとも言えるでしょう。
親子上場も、政策保有株式も、「持っていること」が問題なのではありません。
問われているのは、「なぜ今、それを持ち続けているのか?」を説明できるかどうかです。
説明責任は、数字や制度だけでなく、「対話の準備」というかたちで、早晩、IRやサステナビリティ担当者さまの“現場”に降りてきます。
だからこそ、「いま動けなくても、考えておくこと」は重要です。
—
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。