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未来の太陽電池「ペロブスカイト」って何?——建物で発電する時代へ。知っておきたい基礎知識と最新動向

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なぜいま「ペロブスカイト」?

「太陽電池は屋根に載せるもの」──そんな常識が今、覆ろうとしています。

2025年5月、東京都が「2040年までに約55万世帯分の電力消費に相当するペロブスカイト太陽電池の導入」を正式に表明しました*1。経済産業省も東京・大阪・愛知・福岡に対し導入目標の策定を要請する*1など、いま、日本では「建物で発電する」次世代太陽電池の本格導入が始まろうとしています。その主役が、日本発の技術として注目される「ペロブスカイト太陽電池」なのです。

なお、国全体としては2040年に約20GWのペロブスカイト太陽電池導入を目指すことが戦略に明記されています*11

今回のブログでは、サステナビリティ担当者さま向けに、この革新的な技術の基礎知識と、最新の政策・市場動向をわかりやすく整理してお届けいたします。

 

ペロブスカイトって何?──これならわかる基礎知識

「ペロブスカイト」とは、ロシアの鉱物学者ペロフスキーにちなんで名付けられた結晶構造の名前です。2009年ごろから、この構造をもつ新しい太陽電池材料が研究されるようになり、飛躍的に性能が向上。現在ではシリコンに匹敵する発電効率を実現するまでに成長しました。

特筆すべきはその「薄くて軽く、曲げられる」という性質。フィルムのように塗ることができ、壁や窓など、これまで太陽電池を設置できなかった場所にも導入可能です。

また、主要原料であるヨウ素は日本が世界シェアの約30%を占めており、経済安全保障の観点からも注目されています*12

 

進化の背景──日本企業もリード

積水化学工業が2025年度に販売開始を*2、2030年までには年100万kW級の生産体制構築*3を予定しています。また、パナソニックも建材と一体化したペロブスカイト製品の試験販売を控えており*4、国内勢が世界の先頭を走る領域*5でもあります。

さらに、積水化学は大阪・堺で100MW級の新製造ラインを設立し、2030年までにGW級体制を構築予定。片岡製作所も500MW規模の装置生産体制を京都に整備し、サプライチェーン強化に貢献しています*13

もちろん、課題もあります。水分や熱への耐久性、そしてコストがその代表例です*6。しかし、技術的には着実に解決の道筋が見えつつあります*7

 

導入の“可能性”から“現実”へ──建物が発電所に変わる時代

ペロブスカイトが注目される最大の理由は、「土地に縛られない再エネ」の実現です*8

シリコンパネルのように広い屋根や土地を必要とせず、都市部のビルの壁面や窓ガラスに貼るだけで発電できる──これは、再エネ導入が進みにくかった都市型企業にとって極めて大きなチャンスです。

  • 駅、空港、スタジアムの外装
  • 商業施設の窓面
  • 工場の外壁や屋内照明パネル

──こうした場所が、電力を生み出す新たな“発電拠点”となり得ます。

 

普及の追い風──政策・補助・市場形成の三拍子

政府は「グリーンイノベーション基金」から648億円を投じて技術開発を支援*9。さらに、企業や大学への設置補助金(2025年度〜)も始まり*10、導入コストの軽減と市場形成が本格化しています。

特に「初期導入対象」として重視されているのは、耐荷重が10kg/m²以下の屋根、避難施設、BCP拠点、設置面積が広い大型施設などです*14。こうしたターゲット設定により、企業の導入判断もしやすくなっています。

また、東京都が表明したような導入目標の明確化は、今後の公共調達や補助制度の拡充を後押しする可能性が高く、企業の再エネ調達戦略にも影響を与えるでしょう。

 

「自社での活用可能性」を考える視点

  • 自社施設の再エネ活用として、ペロブスカイトは物理的・経済的ハードルを下げる技術
  • ZEB、RE100、ESG評価、TCFD対応など、さまざまな文脈とつながる
  • 建材一体型製品の普及が進めば、リニューアル時に自然と再エネ導入が可能に
  • 「先進技術の導入」そのものが、統合報告書やIR資料での発信価値を持つ

また、設置・施工のためのガイドライン整備や、FIT/FIP制度への適用検討も進んでおり、企業が制度的に安心して導入できる環境が整備されつつあります*15

 

まとめ:いまから備える、“壁が発電する未来

ペロブスカイト太陽電池は、単なる新素材ではありません。
「建物が発電する」時代の入り口であり、都市型再エネ導入の“最後の切り札”とも言えます。

補助制度や市場の立ち上がりが進む今、本記事が情報収集・調達方針のご検討等の参考となりましたら幸いです。

 

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それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1 出典:日経電子版「曲がる太陽電池、大都市圏に導入目標 東京都は55万世帯分構想」(2025年5月4日)

*2 出典:積水化学工業株式会社「ペロブスカイト太陽電池事業説明会」資料(2025年1月7日)

*3 出典:積水化学工業株式会社「質疑応答 ペロブスカイト太陽電池事業説明会」資料(2025年1月7日)

*4 出典:
- パナソニック「【NEXT技術】ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の可能性
- 日経電子版「曲がる太陽電池、大都市圏に導入目標 東京都は55万世帯分構想」(2025年5月4日)

*5 その他、コニカミノルタはペロブスカイト型太陽電池向け保護膜の生産を2026年度にも開始する予定であり、電池の耐用年数を従来の2倍に延ばすことを目指しています B。また、セイコーエプソンは、ペロブスカイト太陽電池の部品や製造装置を開発する韓国の新興企業ゴサンテックに出資し、連携を強化しています。(出典:Ask! NIKKEI 「ペロブスカイト太陽電池の特徴と利点は何ですか?」)

*6 参考資料:自然エネルギー財団「ペロブスカイト太陽電池に高まる期待 軽量化の動きが加速、 窓・壁面一体型も」(2024年9月)

*7 参考:日経電子版「「曲がる太陽電池」寿命2倍20年に コニカミノルタが保護フィルム」(2025年4月22日)

*8 注目されている背景には、経済安全保障上の理由もあります。ペロブスカイトは主原料であるヨウ素を日本国内で安定調達できますが、既存の太陽光パネルの原料であるシリコンは中国への依存度が高いため、経済安全保障の面からもペロブスカイト太陽電池の導入は重要視されているのです。(出典:Ask! NIKKEI 「ペロブスカイト太陽電池の特徴と利点は何ですか?」)

*9 参考資料:

*10 令和7年度 環境省当初予算案「ペロブスカイト太陽電池の社会実装モデルの創出に向けた導入支援事業(経済産業省連携事業)

*11 経済産業省「次世代型太陽電池に関わる動向について」(2025年5月)p.4

*12 同上 p.5,p.23

*13 同上 p.20

*14 同上 p.21-22

*15 同上 p.25-26

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