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“物語を継ぐ絵画”をめぐる美術散歩──根津美術館とアーティゾン美術館で企業文化のつなぎ方を感じる【GWおすすめ】

価値創造ストーリー

【GWおすすめ④】燕子花(かきつばた)が咲く季節だけ、出会える国宝があります

ゴールデンウィーク、おでかけ先のおすすめ最終回です。

連休後半、もし都心で静かに過ごす時間があるなら──
根津美術館へ、尾形光琳の国宝「燕子花図屏風」を観に行きませんか?

 

財団創立85周年記念特別展
国宝・燕子花図と藤花図、夏秋渓流図
光琳・応挙・其一をめぐる3章

 

この「国宝」は、毎年、燕子花(かきつばた)が咲く季節にだけ公開されています。

 

屏風に描かれているのは、リズミカルに並ぶ燕子花(かきつばた)の群生。

ですがこれは、単純に「植物を観察して」描いたものではありません。

 

実はこの「燕子花図屏風」は、日本古典文学の代表格である『伊勢物語』の一場面(「東下り(あずまくだり)」をモチーフにして制作されたものなのです。

 

ご参考:「東下り」とは

主人公は、都に「居場所がない」と思い、「自分の住むべき場所を求めるべく」、友人たちと連れ立って、当時は田舎だった東国へと向かうことにします。

その途上、三河(愛知県東部)の八橋というところで休憩していた時のこと。
水辺に燕子花が群れ咲いているのを見つけた一行のひとりが、主人公に向かってこんなリクエストをします。
「『かきつばた』の五文字を、句の先頭に入れて、旅の気持ちを読め」

 なかなかの難題ですが、主人公はこれに応えます。

 

らころも
つつなれにし
ましあれば
るばるきぬる
びをしぞおもふ

 

(大意)何回も着て、体になじんだ唐衣のように、慣れ親しんだ妻。彼女が(都に)いるからこそ、遠く離れた旅のわびしさが思われる。

 

句の頭の文字をそれぞれ拾っていけば「かきつは(ば)た」となります。主人公は、見事にふたつの課題をクリアしたわけです。
歌を聞いた人々は涙をこぼし、食べていた乾飯(米を乾かしたもの)がふやけてしまったほどでした。

(出典:和樂web「『伊勢物語』への招待~「東下り」の物語を知れば、光琳の<燕子花図屏風>はもっと面白い!」)

 

光琳は、人物を描くことなく、花の構成と色彩だけで、この文学的世界を象徴的に表現しました。
つまりこれは、絵画でありながら、文学を“感じさせる”という、いわば「翻訳作品」でもあるのではないか、私はそう考えています。

 

“感じさせる”という文化のつなぎかた

尾形光琳が描いたのは、物語そのものではなく、その余情(よじょう)
——情景が心に残す、かすかな揺らぎや記憶です。

それはまるで、かつての人々が愛した物語や感情を、
今の感性で再構成し、未来へとつなげようとした試みとも言えるでしょう。

 

これは、歴史ある企業の「企業理念」を現代にどう反映するかにも通じる考え方ではないでしょうか。

 

過去の理念や価値観をそのまま保存するのではなく、
今の社会にふさわしいかたちで、翻訳しなおし、再構成して受け継いでいくこと——

たとえば、

ー 明治創業の企業が、創業者の精神を人的資本経営のビジョンに織り込んで発信

- 地域に根ざしたストーリーを、統合報告書で“社会との共創”として語り直す

- 代々受け継がれてきた職人技を、次世代のテクノロジーと融合させて展開する

 

これらはすべて、文化的資産の再解釈=リデザインです。

これらは、企業文化や営みの「目に見えない資産」を未来につなぐ営みといえるでしょう。

燕子花図屏風は、300年以上も前に、まさにそのような意識で描かれた作品なのかもしれません。

 

美術館で深呼吸しながら、「企業文化」を見直す

根津美術館は、建築空間も庭園も見事で、訪れるだけで心が整う場所です。

今の時期は、庭に咲く本物のカキツバタと、屏風のカキツバタが響き合い、まるで時空を超えて風景がつながるような感覚を味わえます。

企業でIRやサステナビリティを担当される皆さまにも、この「静かな文化体験」のなかで、ぜひ、自社の文化的資本──理念、ストーリー、美意識──をどう未来へ翻訳していくかに思いをはせていただければ幸いです。

 

今年(2025年)の公開は、5月11日(日)まで。
ゴールデンウィークがほぼ見納めの時期となりますので、よろしければぜひお出かけください。

 

【GWおすすめ⑤】追加お出かけ情報:俵屋宗達に出会えるアーティゾン美術館へ

根津美術館の「燕子花図屏風」に感銘を受けたら、
もうひとつの“物語を描く絵画”に会いに行ってみませんか?

東京・京橋にあるアーティゾン美術館の常設展示では、
いま、
新収蔵作品として、伝俵屋宗達「源氏物語図」空蝉  を観ることができます。

 

こちらの作品は、源氏物語のなかでも、女性のはかなさや距離感を美しく表現した「空蝉」の巻を題材にしています。
宗達は、人物の感情を描きすぎず、余白と構図、装飾性によって、物語の気配を“感じさせる”絵画を生み出しました。

 

ちなみに、
この俵屋宗達こそが、のちの尾形光琳に多大な影響を与えた存在です。

光琳は宗達の作品に私淑し、構図や表現方法を学びながら、自らの時代の感性で再構成しました。
つまり「燕子花図」は、俵屋宗達の絵画観を“未来に翻訳した”作品でもあるのです。

 

こうして2つの作品を見比べてみると、
文学×絵画×デザインの継承と発展という、琳派のダイナミズムが立体的に浮かび上がってきます。

 

根津美術館で尾形光琳を、アーティゾン美術館で俵屋宗達を。
ゴールデンウィークの一日を、静かで奥深い“文化のリレー”に触れる時間として過ごしてみてはいかがでしょうか。

 

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今週もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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