気候変動と並んで、いま企業のサステナビリティ戦略に大きな影響を与え始めているのが「生物多様性」です。
TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)、SBTN(Science Based Targets for Nature)、さらには2030年までに世界の陸地と海洋の30%以上に対する保全を目指す「30 by 30目標」──これらに対応するため、企業様においては今、環境負荷にとどまらず、どこでどのような自然に影響を与えているのかを空間的に把握する力も求められています。
聞くからにハードルが高そうなこの“空間的な把握”ですが、その「救世主」になる…かもしれないツールが、最近発表されました。
最近環境省が提供を開始した「生物多様性見える化マップ」です。
無料で誰でも使えるこの空間情報ツール、企業様のネイチャーポジティブの戦略立案やリスク把握に役立ちそうですので、本日のブログではこの件をご紹介させてください。
1. 環境省では、2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」に基づき、30by30目標の達成と多様な生態系のネットワーク化に向けて生物多様性の重要性や保全効果を見える化する「生物多様性見える化システム」の設計・開発を進めてきました。
2. 今般、当該システムの機能の一部として、保護地域、自然共生サイト、生物多様性保全上効果的な場所等を地図上で確認できる「生物多様性マップ」及び自然共生サイトの取組内容等が確認できる「自然共生サイト検索ナビ」の試行運用を開始しました。
出典:環境省報道発表資料「生物多様性見える化システムの試行運用開始について」(2025年4月21日)
このマップの魅力は、なんといってもその情報量。保護地域、重要湿地、自然共生サイト、巨樹・巨木林、重要里地里山など、保全上効果的な場所に関する多層的な情報を一画面で確認できます。
個人的には以下に注目しています。
自社工場や物流センターが「重要湿地」や「保護地域」等と重なっていないかをチェック。重複していれば直接影響、近接していれば間接影響として認識し、リスク評価や回避策に活かすことができます。
これは、TNFDが提唱する「LEAPアプローチ(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)」のうち、初動フェーズ(Locate & Evaluate)と親和性のある実務ステップです。
調達先や委託先の所在地をマップに落とし込み、自然保全エリアとの重複をチェック。ファイナンス判断や契約見直しの材料になります。とくに、金融・製造業では、取引前のデューデリジェンスにこのツールを取り入れることで、ESGリスクの早期検知が期待されます。
工場や研究所の敷地内に、自然共生サイトの候補となり得る場所が存在する場合、OECM(その他の効果的な保全手法)として登録申請を検討できます。ESG評価との直接的な連動事例はまだ少ないものの、地域連携や戦略の透明性強化に資する動きとして注目されています。
もちろん、マップに表示される情報はあくまでベースラインです。
地域の自然環境は常に変化していますし、現地確認(グラウンドトゥルース)と、地域住民やNPOとの協働があってこそ、このツールは真価を発揮します。
環境省も、本マップを「見える化」から「つながる・支える」ツールへと進化させようとしています。企業様もその一翼を担う存在となることが期待されています。
これからの企業様には、「どこに・どれだけ・何をするか」を空間情報に基づいて語れるかどうかが問われます。
「生物多様性見える化マップ」は、その第一歩にふさわしいツールです。
まずは“地図を開く”ことから始めてみませんか?
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今週もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。