2025年4月22日の日経電子版に掲載されていたシャープの新製品は、「冷蔵庫が飲み物をシャーベットにする」という奇抜な(?)アイディアが実現されたものでした。ジュースやスポーツドリンクを冷蔵庫で“過冷却”状態にし、取り出して振るとシャーベット状に変わるというのです。
これは、一見するとユニークな機能を搭載したニッチな家電のように思えます。
しかしこの製品は、一般家庭向けにつくられたものではありません。
建設現場や工場、学校の部活動など、「夏の高温下で働く・動く」人たちに活用されることを目指すものです。
冷たくて飲みやすい──それが、命を守ることにつながる環境があるからです。
地球温暖化の影響で、猛暑は日本社会に深刻な影を落としつつあります。2024念の6月から8月の平均気温は、1898年の統計開始以降、昨年と並んで最も高く、全国153の気象台等のうち半数以上の80地点で、平均気温が夏として歴代1位(タイ記録を含む)の高温となりました*1。熱中症による救急搬送者数も増加しています。
建設現場や製造現場では、いくら空調服を導入しても限界があります。身体の内側から冷やすこと──それは、現場の安全対策の新たなフェーズなのです。
このような文脈の中で登場したのが、シャープの“シャーベット冷蔵庫”。
見た目はシンプルな技術ですが、その背景には、「労働安全衛生」「健康経営」「気候変動への適応」といったサステナビリティの核心的テーマが流れています。
この冷蔵庫は、液体が完全に凍る手前の「過冷却」状態を精密に制御することで、飲み物を簡単にシャーベット化できるようにしています。
特筆すべきは、製品の販売形態。家電量販店などではなく、建設現場や工場などの企業に向けて、レンタル方式で提供されます。想定価格は月3〜4万円、2〜5カ月間の利用が可能とのこと。
一般向けに販売するのではなく、「必要な場所に、必要な期間だけ届ける」──この発想そのものが、社会課題起点の製品設計と言えるでしょう。
シャープは2027年度までに3,000社への導入を目指しています。この数字は単なる営業目標ではなく、3,000の現場に新たな健康対策を届けるという、社会的インパクトの指標でもあります。
企業のサステナビリティレポートにおいて、「従業員の健康と安全」や「気候変動への適応」は、重要な社会課題として頻出します。
ところが、実際の開示では「熱中症対策のガイドラインを整備しています」「水分補給を促しています」といった、やや抽象的な表現にとどまるケースも少なくありません。
その点、シャープの取り組みは具体的かつストーリー性があります。
- なぜこの製品が必要なのか
- どのように技術を活用したのか
- 誰に届け、何を変えようとしているのか
これらが明確であることによって、投資家・従業員・取引先・地域社会といったステークホルダーに対する説得力が大きく高まります。とりわけ、BtoB領域での課題解決は、自社の“課題対応力”を示す非財務情報として、企業価値に直結します。
シャープの事例は、「製品=社会課題解決の道具」として語れる好例です。
では、皆さまの企業では、どうでしょうか。
技術開発、サプライチェーン管理、人事制度、地域連携──どれも、視点を変えれば社会課題とつながります。まずは自社の取り組みを「社会課題への貢献」という目線で棚卸しし、そこにストーリーを与えることで、報告書の価値はぐっと高まります。
たとえば、以下のような要素を意識するだけで、読み手の印象は大きく変わります。
- 背景と目的:その取り組みは、どんな社会課題に応えるために始まったのか?
- 具体的な活動:どの部門が、どのように関与しているのか?
- 成果と展望:どんな変化をもたらしたのか、または目指しているのか?
数値だけでは伝わりにくい“価値”を、ストーリーで届ける。それが、今求められるサステナビリティ報告です。
シャープの“シャーベット冷蔵庫”は、単なる商品開発を超えて、気候変動という社会課題に企業の技術で応える、象徴的な取り組みです。しかもそれは、企業価値の文脈でもきちんと語れるテーマになっています。
もし、貴社にもこうした“語れる活動”があるのなら──それをきちんと「伝わるカタチ」にしませんか?
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:Weather X(日本気象協会)「2024年熱中症にまつわる夏の振り返りと「熱中症に関する意識調査」(2024年11月21日)
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。