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生成AIで訴訟リスクは予測できるのか?──サステナビリティ対応に活かす“予防的”リーガルテックの可能性

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AIスタートアップ「リーガルAI」が、訴状や反論書面を読み込ませることで裁判の見通しを予測するツール「ジャスティ・アイ」を発表したそうです。

 

裁判で勝てる確率、生成AIが訴状から予測 新興が開発(日経電子版 2025年4月18日)

 

生成AI(Gemini 2.5 Pro)を基盤とするこのサービスは、損害賠償の額や訴訟費用の分担までを推測する機能も備えているとのこと。法的判断の“見える化”という観点で、注目を集めています。

 

こうしたAIの進化は、サステナビリティ担当者にとっても他人事ではありません。

グリーンウォッシュ、気候リスクの軽視、人権デューデリジェンスの不備──これらが訴訟対象となる事例はすでに現実化しており、今や「訴訟リスク」はサステナビリティ業務とは不可分のものとなっています。

 

そんな中、今回報道されたような「判決予測AI」のようなツールが、どのようにサステナビリティの“予防的リスクマネジメント”に貢献し得るのか——本日のブログでは、この点について考えてみたいと思います。

 

訴訟リスクは“起こる前に見える化”する時代に

「ジャスティ・アイ」は、あらかじめ訴状や反論文書をAIに読み込ませることで、関連する法令や判例と照らし合わせ、判決の方向性や論点構造を推測する仕組みとされているようです。

重要なのは、これが「訴訟が起きてから」ではなく、「訴訟の可能性がある段階で」使えるという点です。 実際の法的助言を行うことはできません*1 が、AIによる構造的な分析や過去の傾向に基づく仮説提示を通じて、担当者の判断材料を広げてくれる可能性は大いにあるでしょう。

ここには、従来のリーガルチェックや弁護士レビューとは異なり、「気軽に使える、社内の一次チェックツール」となっていく未来が感じられます。

 

予防的活用の可能性──生成AIをどう使い得るか、3つのシナリオ案

① 開示内容の“事前レビュー”に活用できるかもしれない

たとえば統合報告書やサステナビリティレポートに記載予定の方針文や目標値などに対し、AIに「ステークホルダーからの反論」や「訴訟時の争点」を模擬的に予測させることで、表現の曖昧さや主張の弱点を事前に把握する手がかりになるかもしれません。

もちろん、AIの提示はあくまで仮説の域を出ないものですが、訴訟リスクの“構造”を意識した開示へと近づけるヒントにはなりそうです。

② 契約書や人権方針などの改善検討のヒントに

「ビジネスと人権」の分野においても、生成AIの活用余地があるのではと考えます。

たとえば、社内の人権方針やサプライヤー契約をAIに読み込ませたうえで、「労働者から訴訟を起こされたらどうなるか?」「どの条項がリスクとなるか?」といった仮定のもと、争点や弱点を洗い出す使い方が想定されます。

あくまで実務判断の参考のひとつに留めるべきですが、従来見落とされがちだった“第三者視点”を仮想的に導入できる点は興味深いです。

③ 取締役会判断の補強エビデンスとして

サステナビリティ関連のテーマ——特に、気候訴訟/気候変動訴訟が増加しています。

こうした環境下、取締役会での意思決定を「合理的だった」と後に説明できるかどうかは、サステナビリティ部門にも関わる重要な論点です。

生成AIによる判例分析を活用し、「この判断は妥当だったと評価される可能性が高い」という仮説を得られれば、判断過程の記録補強につながるかもしれません。

 

AIはサステナビリティリスク管理の“新インフラ”に?

もちろん、生成AIを使った判決予測はまだ発展途上の技術であり、過信は禁物です。また、非弁行為との線引きや、機密情報の取り扱いには慎重な運用が求められます。

それでも、AIが提供するのは単なる「答え」ではなく、「考える視点のヒント」であることをしっかりと理解し、使用の前提としておくならば、社内での一次リスクチェックやガバナンス機能の補完手段としての活用は、企業さまとしても検討される価値がありそうです。

 

予測可能な正義へ──サステナビリティの新たな備え

サステナビリティ情報の開示義務が強まる中で、「企業としてどう考えたか」「なぜそう判断したか」を説明する必要性は高まる一方です。

もしAIが“見えにくいリスク”を言語化してくれるとすれば、それは「備える」ための非常に大きな一歩になるのではないでしょうか。

ジャスティ・アイのようなツールが、サステナビリティの現場における“対話と構想の補助線”として使われる未来は、そう遠くないのかもしれません。

 

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今週もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、来週のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1 注:弁護士以外が報酬を得る目的で法律のアドバイスをする「非弁行為」は弁護士法で禁止されているため。

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