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統合報告書は取締役会の実効性をどう語れば説得力があるのか?~「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則から得られるヒント~

ガバナンス / コーポレート・ガバナンス / 価値創造ストーリー / 統合報告書

「コーポレートガバナンス改革は、形式から実質へと深化するべき」「取締役会の実効性とは」——これらは統合報告書を制作する上では避けて通れない部分ですが、同時に、制作を担当しておられる皆さまにとっては、正直なところ“頭の痛い”テーマでもあるのではないでしょうか。

導入から10年以上が経過した、「取締役会実効性評価」の結果だけを載せておけば良いというものではない。さりとて、よもや取締役会の内容を“微に入り細を穿って”掲載するわけにもいかない。

 

いったいどのように書けば、自社の取締役会に「実効性がある」と示すことができるのか・・・?

 

そんなふうにお悩みの統合報告書制作ご担当者さまにとって、大きなヒントになりそうな資料が出てきました。それは、経済産業省の

 

「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則(案) 

 

です。

実はこの取締役会5原則(案)は、2025年3月(第7回会合)案4月(第8回会合)案の2回、提出されています。

このブログでは、両案の違いに注目しながら、

・取締役会について何をどう語れば、統合報告書で「実効性ある説明」ができるのか?
・今回の文案修正に見える、経産省の”本気度”とは?

について考えてみたいと思います。

 

第7回→第8回で何が変わった?注目ポイントはここ!

 

経産省の会合で提示された5原則案は、3月(第7回)案から4月(第8回)案にかけて、文言も構成も大きくブラッシュアップされました。

具体的には、こんな変更点があります。

  • 構成が、長文→箇条書き中心に再整理。読んですぐ要点がわかる
  • 重要キーワードを明記例えば
    (例:「価値創造ストーリー」「中長期的な資本効率性」「ステークホルダー」「複数のシナリオ」)
  • 取締役会実効性評価を通じて“強靭な取締役会”を構築していく必要性を強調 → トーンが一層積極的に
最も注目したいのは「原則1:価値創造ストーリーの構築

この「原則1」は、今回(第8回)の案では簡潔に「自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築する。」とだけ記載されました。

そして、自社の競争優位性に基づくストーリーを、PL視点だけでなく、BS・CFも踏まえて描くこと、そしてそれを取締役会がしっかり議論し、フィードバックし、経営とともに“磨き上げていく”ことが明記されました。

 

取締役会が議論すべきポイントとしては下記が提示されました。

  • 自社の強み(潜在的な強みを含む)とリンクした内容となっているか
  • 社会課題やステークホルダーについて考慮されているか
  • 長期的な経営環境変化の適切な分析の下、複数のシナリオが考慮されているか
  • 中長期的な資本効率性や成長性が考慮されているか

 

…かなり、具体的ですね。

つまり、統合報告書では「経営陣が描いたストーリーを、取締役会がどう深掘りし、対話し、責任を持って伴走しているか」が、語るべき“実効性”の核心になってきた、ということを指しているようです。

 

「価値創造ストーリー」についての記述は、統合報告書の“前半部分”までで終わり!というわけには、今後はいかなくなりそうです。

 

短期志向を防ぎ、リスクテイクを支える──取締役会の“実効性”はここに出る!

今回の案のもうひとつのポイントは、「中長期視点」(=原則3)や「適切なリスクテイク」(=原則2)といったテーマが、より明確に取締役会の責任として位置づけられたことです。

例えば、「短期的な株主還元を優先していないか?」「経営陣が慎重すぎて機会を逃していないか?」
──そうした視点で、経営を支えつつ、必要に応じて問い直すのが、取締役会の果たすべき“「稼ぐ力」の強化”なのです。

 

統合報告書でこの視点を盛り込むなら、こんな書き方が考えられます。

–  中期経営計画の議論において、長期的リターンを優先した判断がなされた
–  新規事業投資に対し、想定されるリスクとリターンを両面から審議した

このような記述こそ、「形だけじゃない統治」を伝える実効性の表現の一例です。

 

なお、このあたりの記述は、統合報告書のCEOメッセージやCFOメッセージでROICなどの資本効率指標を強調した表現をしている場合、「矛盾した」記述になる可能性もあります。

ガバナンスページの書き方だけでなく、統合報告書全体を通じて発信する「企業としてのメッセージ」に矛盾がないかを改めて問い直すことも必要になりそうです。

 

“マイクロマネジメントの回避”って、なぜ今あえて書かれたの?

第8回案で追加された印象的なフレーズのひとつに、「マイクロマネジメントの弊を避ける」があります。

これは、「何でも取締役会が口を出す」ことによって、かえって経営の責任が曖昧になり、競争力も落ちる、という警告。つまり、「責任と役割の線引きをしながら、戦略的に関与する」ことが求められているのです。

統合報告書では、「経営陣の創意工夫や裁量を生かしつつ、経営判断の質を高める会議体」として、取締役会の“適切な距離感”を語れるとよさそうです。

 

ガバナンスを「価値創造の一部」として語ろう

今回の案を見てあらためて思うのは、「ガバナンスは“組織図”ではなく、“物語”で語る時代に入った」ということです。

取締役会の構成や委員会の回数ではなく、「企業の価値創造にどう貢献したか?」という視点でガバナンスを描く。これが、これからの統合報告書づくりの大きなヒントになりそうです。

私たちは、統合報告書やサステナビリティレポートの企画・編集・制作を通じて、こうした「語りの再設計」をご支援しています。

お悩みがありましたら、ぜひご相談ください。

 

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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