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男女共同参画機構が変える人的資本開示。男女間賃金格差が「見える化」する時代に、報告書はどう進化すべきか?

DEI / 人材戦略 / 人的資本開示 / 統合報告書

はやいもので有価証券報告書への人的資本開示義務化開始から時が経ち、今年(2025年)は「3年目」の開示を迎える企業さまも多いことでしょう。

そんなお忙しい時期に恐縮ではありますが、来年(2026年)に向け、いよいよ「次の波」が見えてきましたので、本日はそのお話をしてみたいと思います。

男女間賃金格差の本格的な可視化と比較評価がいよいよ開始か

次にやってくる波とは、男女間賃金格差の本格的な可視化と、地域単位での評価・比較です。

中心的役割を果たすのは、「男女共同参画機構」。
政府は、各地の男女共同参画センターを支援する中核機関として、2026年度、新たに「男女共同参画機構」を創設します。

この機構のミッションは、賃金格差を含む女性就労に関する専門的な調査・研究・データの蓄積と発信。これまで各地のセンターが個別に取り組んでいた啓発・支援活動が、国レベルでの政策形成と連動する体制へと進化します。

 

政府は男女共同参画社会の実現へ、男女の賃金格差の実態を把握する体制をつくる。各地にある「男女共同参画センター」の中核組織として「男女共同参画機構」を2026年度に新設する。

同機構は専門的な調査・研究やデータの蓄積を進める。各センターと連携し格差の実態を調査する。集めたデータを政府の政策立案に生かす。機構は「国立女性教育会館」を改組する。

出典:日経電子版「男女の賃金格差把握へ新組織 政府、来年度に」(2025年4月14日)

 

 

背景には、「男女の賃金格差が女性の地方離れを加速させている」という政府の危機感があります。とくに石破政権が掲げる「地方創生2.0」では、“女性に選ばれる地方”の実現が政策の柱の一つ*1

つまり、ダイバーシティの課題はもはや「企業の自主的取り組み」にとどまらず、地域社会の持続可能性や国家戦略に関わるものとなりつつあるのです。

 

企業ダイバーシティ経営が「数字」で比較評価される時代へ

これまではある意味「企業任せ」だったダイバーシティ情報に、制度的な「ベンチマーク」と「監視の目」が、加わる——この動きは、企業の統合報告書やサステナビリティ報告書の制作にどのような影響を及ぼすでしょうか?

最も重要なのは、「男女間賃金格差」や「女性管理職比率」といった人的資本データが、産業横断・地域横断の統計と比較される時代に入るという点であると、私は考えます。

 

たとえば、OECDによると日本の男女間賃金格差は、22%。OECD加盟国平均(11%)に大きく後れをとっている状況です*2。これだけを見ると「ふーん…それで?」と思われるかもしれませんが、今後は、こうしたデータに加え、政府主導で整備される地域別・職種別格差データも公開されていくことが予想されます。

その公開が生み出すものとは、なんでしょうか?

 

おそらくは、「外圧」です。

企業様においては、自社の数字を「社会の中での位置づけ」まで含めて説明することが問われることになるでしょう。

「女性管理職比率を30%に引き上げます」と目標を掲げるだけではなく、「なぜ現状はこの数値なのか」「どのような構造的課題があるのか」「地域との連携でどう変えていくのか」といった説明が必要になる時は近づいています。

 

統合報告書現場が担うべき“翻訳”と“統合”とは?

では、2026年度の機構設立までの約1年間、すでに残り時間が少ないですが、企業の報告書(統合報告書や有価証券報告書、サステナビリティレポート)制作現場ではどのような準備ができるのでしょうか。

まずは「新たに開示する」よりも「すでにあるデータをどう捉え直し、語り直すか」がポイントになると私は考えます。

人的資本開示に必要な情報は、おそらくは企業のあちこちに散らばっています。したがって、複数部門が連携して整備することが求められますが、その時に橋渡し役を担うのが、報告書の編集・制作チームです。

 

ここで求められるのは、「数値の貼り付け」ではなく、背景にある戦略や課題を読み取り、意味ある物語に翻訳する力であると考えられます。

たとえば、

  • 賃金格差が全国平均より大きい場合、それはどの拠点・職種に起因しているのか?
  • 管理職比率の改善が鈍い背景には、育成フローやカルチャーにどんな課題があるのか?
  • 地方拠点ではどのような地域施策・教育機関との連携が始まっているのか?

こうした課題意識をもってデータを読み解き、ストーリー化する。
そして必要ならば/可能ならば、必要な情報を社内に「探しに行く」。

そして、経営メッセージ・人材戦略・地域との共創ストーリーとして一本に「統合」することが、これからの報告書制作に求められることであると、私は考えております。

 

「見せかけの開示」から「問いに応える開示」へ

報告書の読み手──とくに長期志向の投資家やステークホルダーは、数字の改善そのものとあわせて「なぜそうなのか」「今後どう変えるつもりなのか」を重視しています。

男女共同参画機構による統計整備と政策連動の動きは、企業にとって開示のハードルを上げる一方で、信頼性の高い説明をするための“物差し”を提供するものでもあります。

 

人的資本開示の義務化はゴールではありません。
むしろ、今回の男女共同参画機構の新設を契機に、「自社が社会課題のなかでどう位置づけられるのか」まで視野に入れた報告設計がスタンダードになっていくでしょう。

制作の現場で迷われたときは、ぜひ私たちにご相談ください

御社の取り組みと社会の潮流を結びつけ、「伝わる」形に落とし込むお手伝いをいたします。

 

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それではまた、次回のブログで。

執筆担当:川上 佳子


*1 このあたりの問題意識をご覧いただくには、下記資料等がご参考になると思います。

第3回新しい地方経済・生活環境創生会議 資料1「女性活躍に関する現状と取組について 」(令和7年1月25日、内閣総理大臣補佐官(賃金・雇用担当) 矢田 稚子)

*2  2023年の数値。

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