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統合報告書・人的資本レポート担当者必見:経産省「ダイバーシティ経営」新レポートをどう読むか?

DEI / 人材戦略 / 人的資本開示 / 価値創造ストーリー / 統合報告書

2025年4月7日に、経済産業省が発表した「企業の競争力強化のためのダイバーシティ経営(ダイバーシティレポート)は、これまでの“女性活躍”中心のダイバーシティ施策から、大きく舵を切った内容でした。

 

レポートの概要

本レポートは、イノベーション創出を目指す企業や国際競争力を高めていきたい企業の取締役会、社長・CEOら経営陣及びダイバーシティ経営の担当者を主な読者として想定しています。

 

「企業の競争力強化のための手段としての多様性」という観点で、企業がダイバーシティ経営に取り組む際に直面する課題と、その解決につながるアクションを提示しており、以下の事項を盛り込んでいます。

 

  • 経営陣へのメッセージ
    取締役会と社長・CEOら経営陣双方に対して、自社の競争力強化の観点からなぜ多様性推進に取り組む必要があるのか、事例を交えて掲載。

 

 

  • 多様性推進に関する経営陣の課題感の解消に向けて
    経営観点から見た多様性の必要性に関する課題感に答えるかたちで、競争力につながるダイバーシティ経営の考え方を掲載。

 

 

  • 実際にダイバーシティ経営に取り組む際の課題感と競争力強化につなげるための対応とは
    担当役員や担当者が具体的取組を進める際に抱えている課題感に答えるかたちで、企業に求められる具体的なアクションを掲載。

 

具体的な解決アクションまで提示されているのが本レポートの特色

 

このレポートの特色は、

特に「企業の競争力強化のための手段としての多様性推進」という観点に着目し、日本企業がダイバーシティ経営に取り組む際に直面する課題を踏まえ、その解決につながるアクションを提示

しているところにあります。

ただ、一方で、

提示されている各アクションをそのまま自社に取り入れ、実践すればよいということではない。企業の経営環境や直面する課題等によって、選択すべきアクションは異なる。

そのため、本レポートで取り上げている課題を自社の状況に落とし込んで考えた際、自社の競争力強
化のためになぜこのアクションが必要なのか、どのような取組を相互に組み合わせて、自社なりに実践
していくことが最も効果的か、想像しながら読み進めていただきたい。

 

と、「そのままマネしちゃだめだよ!」としっかりくぎを刺されているので、ご担当者さまとしては困ってしまわれるだろうなぁ、とも感じました。

(以上、囲みの中はいずれも「ダイバーシティレポート」p1 「本レポートの想定読者と読み方」より)

 

アクション提言を読むカギは3つの進化ステップと経営資源の問い

どうやって読めばいいのかちょっと迷ってしまうこの「解決につながるアクション」を理解する鍵は、ダイバーシティレポート p6「本研究会におけるダイバーシティ経営の定義」であるように、私は思います。

この定義は、次のような3つの進化ステップであると読み替えることで、アクションを自社の文脈で読み替えるヒントとなるように思います。

 

  • 多様な才能を揃える(Diversity)
    必要な知・経験を持つ多様な人材を確保する

  • その才能が機能する条件を整える(Equity)
    不利な立場や構造的ハードルを是正し、公平に機会を開く

  • その才能を“活かし切る文化”を育てる(Inclusion)
    安心して意見し、違いが力になる組織風土を醸成する

そして、これらの3要素は、従来の経営資源をこんな問いで見直すきっかけにもなると考えます。

  • Diversity(多様性)=ヒトの構成
    自社の知・経験の総体は、変化に対応しうる厚みを持っているか?
  • Equity(公平性)=制度の設計
    制度や評価軸は、誰の視点で設計されているか?
  • Inclusion(包摂性)=カルチャーの質
    違いが衝突ではなく、相乗効果を生む組織文化になっているか?

 

これらの問い、ひとつひとつをしっかり考えることは、
統合報告書やサステナビリティレポート、人的資本レポートを作成する上でも大切になってくるのではないでしょうか。

 

グローバル視点で見たDEI:揺り戻しと再定義の動き、そして日本は?

ところで。

今、このタイミング(2025年4月)で「DEI」というテーマについて語るとき、特にグローバルに事業を展開しておられる企業の皆さまは、一抹の不安を覚えられるのではないでしょうか。

この点についても少し、私なりに状況と現時点での考え方を整理しておきたいと存じます。

 

欧米、とくに米国では、かつてCDO(Chief Diversity Officer)の設置や、LGBTQ+・移民出自の人材登用など、多様性を企業経営の中核に据える動きが広がっていました。
しかし近年では、政治的分断の影響を受けて、「DEIは逆差別だ」「企業は中立であるべきだ」といった声が強まり、一部の州ではDEI関連職の削減や大学・企業におけるプログラム廃止も起きています。

一方、欧州ではこうした動きは限定的で、むしろ人権ベースの制度としてDEIが定着し続けています。アジアでは各国独自の文脈で、多様性や包摂性のあり方が模索されている段階です。

 

こうしたグローバルな動きを見ると、日本企業にとっての教訓も見えてくるように思います。

それは、DEIは「掲げること」そのものが目的ではなく、何のために・誰のために進めるのかを問い直すことが不可欠だという点です。

日本では政治的対立こそないものの、「数値目標ありき」「女性活躍ありき」といった形式主義に陥るリスクは残念ながら、現状では少なくありません。

だからこそ、私たちにとっては今、改めてDEIを経営に組み込み、価値創造との接続点を明確にする必要があるのではないか——私はそう考えております。

 

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本報告書についてはこのあとまた改めて読み込み、何か発見があればお伝えいたしますね。

 

今週もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、来週のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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