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「ある年/ない年」格差問題から考える統合報告書での中期経営計画の語り方 ~ 投資家が本当に読みたいことって何?を考える

価値創造ストーリー / 統合報告書

「今年は中計が出る年なので、レポートもそこに合わせて…」——そんなやりとりを社内外の関係者との間で交わしたことがある方、きっと多いと思います。

統合報告書の企画を進めるなかで、いつの間にか「中計ありき」になってしまう。
中計の発表がある年は、「発表されるまで構成が決められない」となり、逆に発表済みの年は「企画の“目玉”がない!」と悩んでしまう——。
こうしたことは、制作現場においては決して珍しいことではありません。

 

けれども、少し立ち止まって考えてみると、そこにはもったいなさもあるように感じます。

本来、企業の価値創造ストーリーは、中計の有無にかかわらず、毎年確実に進んでいるはず。にもかかわらず、中計という“節目”だけを軸に語ろうとしてしまうと、語れることが限られてしまう——そんな構造に、少しずつ違和感をおぼえておられる方、「中計に振り回されすぎるのも、なんだかなぁ」と思っておられる方もいらっしゃるのでは。

本日は、そんな方々のヒントになればと思い、このブログ記事を書いています。

 

なぜ統合報告書の企画は「中計の有無」に影響されてしまうのか?

中計発表の年は、目標や戦略が明文化され、「語れる情報」が一気にそろうタイミングです。そのため、「今年は出るの?」「いつ発表なの?」といった話題が、自然と企画の起点になります。

一方で、発表の翌年・翌々年になると、「あれ、今年は何を軸に書けば?」と迷いが出やすくなります。「昨年と同じような構成でいいのか?」「アップデート要素が薄いのでは?」という声が、社内外で交錯し始めたりします。

こうした構造の背景には、中計を“企業のメッセージ発信イベント”のように位置づけてしまっている傾向があるのではないでしょうか。結果として、「中計の有無=語れることの量」というような感覚にとらわれてしまっているという…。
(↑ ああ、自分で言っておきながら、書けば書くほど身に覚えしかないです…反省しています)

 

中計がなくても、企業の価値創造は止まらない

本来、企業が取り組んでいる価値創造のプロセスは、決して中計発表のタイミングに合わせて動いているわけではありません。

事業戦略の実行、新しい取り組み、KPIの進捗、組織の変化、外部環境への対応——むしろ、そうした“年ごとの歩み”こそ、本来は統合報告書で丁寧に語られるべきですし、読者も読みたがる内容です。

 

——え?なぜそんなことを言えるのか、ですって?

なぜなら…

投資家が統合報告書を読む理由は、「この会社は今後、大きく伸びるかもしれない!」というヒントを探すためだから。そしてそのヒントは、「自分だけが気が付いている」ものが理想だから、です。(だって、みんなが知っていたらそれ、もう株価に織り込まれてしまっている=大きく儲けるチャンスはない、ということになってしまいますものね)

 

そう考えれば、統合報告書では「みんなが知っている」中期経営計画ばかりフォーカスされても、「いやそれはもう知ってるってば!」という感想になってしまう。

それはある意味、推理小説のようなものかもしれません。
物語のクライマックス(=中計の発表)だけを読んでも、企業様の本当の魅力や真相にはたどり着けない。むしろ、序盤や中盤にちりばめられた伏線や何気ない会話の中に、真の手がかりが潜んでいる――そう考えている投資家は多いはず。

投資家は、それらの断片をつなぎ合わせて、企業の“今”と“これから”を読み解こうとしています。だからこそ、どんな年でも、丁寧に拾い上げて言葉にしていく価値があるのです。

そして統合報告書の制作側には、中計という形式の有無にとらわれすぎず、「今年語るべきこと」を見つけ出す視点が求められると言えるでしょう。

 

「ローリング中計」に学ぶ、語れる統合報告書のつくり方

近年増えている「ローリング中計」。これは、中期計画を定めたうえで、毎年その見直し・更新を行うスタイルです。市場や社会の変化が早い今、この形式を採用する企業が増えてきました。

ローリング中計の特徴は、単なる柔軟性だけではありません。
情報更新と対話をセットにすると考えれば、統合報告書の文脈でも非常に魅力的になります。
毎年、「計画の現在地」と「次の展望」を言語化できるため、レポートとしても語れる内容が自然と生まれてくるのです。

ローリング中計は、毎年少しずつ軌道を修正しながら進むという意味では帆船のようなものかもしれません。風向きが変わったら帆を張り直し、航路を微調整しながら目的地を目指す——そのプロセスを可視化し、さらに「どこに向かおうとしているのか」「なぜその航路を選んだのか」までを語るのが、統合報告書に求められる役割です。

単なる「航海日誌」ではなく、「航海の目的と選択の記録」として未来志向の対話を成立させること。それがローリング中計と統合報告書をつなぐ鍵になるのかもしれません。

 

もちろん、従来型の中計にローリング中計のエッセンスを反映する方法もありますので、ご興味あるかたはぜひお問い合わせください

 

それではまた次回のブログで!

 

執筆担当:川上 佳子

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