2025年3月31日、三菱電機さんが価格改定(値上げ)を発表しました。主力のファクトリーオートメーション(FA)機器を含む制御・駆動製品での今回の値上げは、原材料費や加工費の高騰への対応であると、リリースでは説明されています*1。
しかし私は、この動きを、単なる「価格転嫁」ではなく企業価値の向上を意識した経営判断と見るべきと考えております。
事実、三菱電機のCFO(当時)は、本年3月25日付の日経記事の取材で「2年後くらいにROEを10%に引き上げたい」という目標とともに、値上げ、事業ポートフォリオの見直し、製品絞り込みなどを収益改善の柱と位置付けて語っておられました*2。
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さて。
このように、値上げが(BtoCだけでなく)BtoB企業にも広がっていく中、2025年は「統合報告書で値上げをどのように語るべきか」が多くの企業で課題になってきそうです。
ということで今回のブログ記事では、BtoB企業における「値上げを統合報告書でどう開示するか?」をテーマに、構成のポイントをお話してみたいと思います。
統合報告書で価格改定について語る際には、単なる業績報告ではなく企業の価値創造ストーリーの一部として位置付けることが最大のポイントです。投資家に訴求するストーリー構築とする上では、たとえば次のような工夫が有効でしょう。
価格改定を、企業が長期的価値を生み出すプロセス(バリューチェーン)の中に組み込みます。
たとえば「仕入先から製造、販売に至るバリューチェーン全体で付加価値を高め、その帰結として適正価格を実現している」など、価格戦略を価値創造の流れの中で説明します。
値上げにより恩恵や影響を受けるステークホルダー(顧客、従業員、サプライヤー、地域社会など)との関係性変化を語ります。
たとえば「価格改定により確保した収益を用いて顧客へのサービスを充実させた結果、顧客企業とのパートナーシップが強化された」や、「公正な取引を通じサプライヤーとの信頼関係を維持し、安定供給体制を守った」等です。
こうしたエピソードを交えることで、値上げが企業とステークホルダーの共創関係を深化させる側面が強調され、単なる利益確保策ではないとの印象を与えます。
現在の価格改定が将来のどのような成長や価値実現につながるのか、長期ビジョンとの関連で語ります。
たとえば「〇〇年までに業界トップクラスの収益性を確保する」というビジョンに向け、今回の値上げが一里塚であることを示します。また、収益向上により可能になる新規事業開発や設備投資計画に言及し、値上げが未来への布石であることを明らかにします。
値上げには需要減退や競合他社との価格差拡大といったリスクもともないます。統合報告書では、そうした課題にどう対処しているかを開示することでストーリーに深みを持たせることができます。
たとえば「一時的に需要が減少したが、マーケティング施策で回復基調に乗せた」「価格競争力維持のため生産性向上にも並行して取り組んでいる」など、成功体験だけでなく対応策を含めて課題に触れる記述は、経営陣のリスク認識力と対応力をアピールできます。
このように、価格改定を企業の全体戦略や価値観(バリュー)と結び付け、一貫した物語として語ることで、「値上げ」は投資家にとって腑に落ちるメッセージとなります。
統合報告書は、企業がどのように価値を創造し配分していくかを伝えるものです。値上げも価値創造の文脈で正当化される施策であると示すことで、投資家の理解と共感を得られるでしょう。
冒頭でお伝えした三菱電機さんの最新の価格改定(2025年3月)は、FA事業の収益改善に加え、ROE向上という財務目標とも連動しているとのことです。
であれば、統合報告書では、CFOが語っておられた「事業再編」「製品の絞り込み」「在庫圧縮」などの施策とあわせて、価格戦略を企業変革の起点として語るチャンスではないでしょうか。
具体的には、次回発行の統合報告書において、
これらを織り交ぜながら「価格改定は価値創造の一手段」と投資家に伝えることで、統合報告書の読者である投資家に対する訴求力を高め、経営陣への信頼を培う一手になるのではと私は考えます。
価格改定——特に「値上げ」は、ネガティブと思われがちな施策です。しかし、その背景と意図、成果を正しく語ることで、企業の戦略や判断の確かさ、持続可能性などを証明する材料にもなり得ます。
そして、これらを語る媒体としては、統合報告書が最善です。
「値上げ」という事実を価値創造ストーリーの一部に組み込み、昇華させ、顧客との関係性や人的資本、知的資本、財務目標などをつなげて語ることで、読み手の理解と共感を得る力強い開示を行う——こうした動きは、少なくとも現状の有価証券報告書にはなかなかできないことです。
価格改定のような難しいテーマこそ、“語り方”が問われます。
私たちは、企業様のこうした戦略的開示をサポートするパートナーとして、価値創造を伝える統合報告書づくりに伴走しています。
ご興味をお持ちいただけた方は、ぜひ私たちにご一報ください。
ご一緒に「最高の開示の形」を考えてまいりましょう!
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本日も、お読みいただきありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:三菱電機ニュースリリース「制御機器・駆動機器・配電制御機器の価格改定」(2025年3月31日)
*2 出典:日経電子版『三菱電機CFO「2年後にROE10%」 投資・株主還元は上積み』(2025年3月25日)
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。