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HINTサステナ情報のヒント

サステナブルサプライチェーンの鍵は、マーケティングスキル?——取引先の巻き込み方と関係構築の極意

サプライチェーン / ステークホルダー / 人権 / 気候変動

「Scope3(スコープ3)の調査票、なかなか返って来ない……」

Scope3削減に向けて、あるいは人権対応などで、取引先にアンケートや調査票対応を依頼してもなかなか回答が集まらない——こうした課題に直面しておられるサステナビリティ担当者さまは、多いのではないでしょうか。

こうしたお悩み解決へのヒントとして、日経GXで最近紹介されたアステラス製薬さんの事例(2025年3月25日掲載*1)では、「マーケティング的な」手法による改善が功を奏したことが説明されていました。

本稿では、サステナビリティ担当者さまにこそ必要な「マーケティング思考」について、少し掘り下げてご紹介したいと思います。

 

UXなくして協力なし:Scope3(スコープ3)アンケートの回答率を上げる「仕掛け」とは

サプライチェーンに対する上述のようなアンケートや調査票は、大きくとらえれば「BtoB向けのキャンペーン施策」のようなものだ——そのように考えれば、対応の方向性が見えてきます。

相手が企業であっても、行動を起こすのは「人」。
そうであるならば、マーケティングの基本である「UX(ユーザー体験)設計」が重要となるはず

と考えられるということです。

 

実際、アステラスさんの事例にあった工夫は、まさに「UI/UX*2」の観点に立脚したものでした。

(例)

  • ワンクリックで回答できる設計
  • 代表アドレスではなく、担当者個人のメールで送信
  • リアル接点(サミット開催)→デジタル接点(アンケート)というマルチチャネル対応

 

これらの施策はUX設計そのものであり、サステナビリティの施策においても「届け方」の「質」が行動を左右する、という重要な示唆を含んでいます。

 

サプライチェーンエンゲージメントを「ジャーニー」として設計する

サステナビリティの取り組みを「伝える」だけでは動いてもらえない。「届け方」の「質」が行動を左右する——それは、取引先もまた、忙しい日々の中で判断を迫られる「ひとりの生活者」であるからです。

そこで必要なのが、マーケティングの「ジャーニー」という考え方、すなわち、相手が動くまでのプロセスを段階的に設計する発想です。

BtoCマーケティングでは、顧客の関心を育てて購買やファン化へとつなげる「カスタマージャーニー」という考え方があります。BtoBでも「アカウントベースドマーケティング(ABM)」として、特定の取引先を対象に段階的な関係構築を行うアプローチが注目されています。

 

これらは、サステナブルサプライチェーンの構築にもそのまま応用できる考え方です。

たとえば、

  • 【認知・理解】 取引先に理念や目的をわかりやすく共有(例:説明会など)

  • 【共感・賛同】 自社の方針に賛同してもらい、協力の意思を形成

  • 【参加・共創】 アンケートやヒアリングで現状を把握し、改善のアイデアを引き出す

 

アステラスさんは、この流れをリアルな場(サミット)と、個別フォロー(個人メール)を併用する形で丁寧に組み立てていたようです。これは「伝える」ではなく、「ともに考える」ことを重視した設計であり、持続可能な関係づくりに向けた優れた第一歩だと感じました。

 

サステナビリティ担当者さまにも、マーケティング思考が必要になってきた

「フォームを送ったのに返ってこない」

「文書を作ったのに読まれていない」

「方針を決めたのに社内が動かない」



なぜ、人は動いてくれないのか?

歯がゆい思いをされているサステナビリティ担当者さまも多いことでしょう。

 

お気持ち、とてもよくわかります。

でも、もしかしたらそのお悩み、“相手にとっての価値”を設計できているかどうかを見直してみることで解決に近づくかもしれません。伝えている「内容」が悪いのではなく、「届け方」が最適化されていない可能性もありますので。

 

サステナビリティの取り組みが経営マターになり、サプライチェーンを含めた対応も必須となっていく中、サステナビリティ担当者さまにとっては、今、「社内外のステークホルダーを動かすスキル」がこれまで以上に重要になってきていると存じます。

こうした中で、コミュニケーションや体験の設計——相手の行動を後押しする仕組みやコミュニケーションを「設計」し、丁寧に実行し、PDCAで施策をまわしていくというマーケティング思考が不可欠になりつつあるのではないでしょうか。

 

まとめ:サステナビリティ×マーケティングの可能性

これからのサステナビリティ推進に求められるのは、“調査票のクオリティ”だけではありません。
もっと実務的で、相手の行動に直結するスキルも必要です。

 

たとえば、緻密な調査票設計に加えて「参加したくなる導線づくり」を。

たとえば、事実や正しさの伝達に加えて「共感を生む語り方」を。

たとえば、ガイドラインの整備に加えて「関係性の土壌づくり」を——。

 

Scope3や人権など、複雑なテーマこそ、マーケティングの知恵が効く領域です。

私たちは、サステナビリティ戦略や報告書制作の支援を通じて、こうした「伝え方」のデザインについてもご相談にのることができます。ご関心ある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

 

*1 日経GX(ウェブ)「スコープ3調査、個人メールで回答率改善 アステラス」(2025年3月25日掲載)

*2 UI=ユーザーインターフェース、UX=ユーザーエクスペリエンス。

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