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毎年発表される、日経統合報告書アワード。
2025年3月には、第4回(2024年)の審査結果が発表されました。
評価されたレポートを拝見すると、整った構成、美しい図解、明快なストーリーが並びます。
IRや広報部門におられる方々にとっては、“お手本”のような存在とも見えることでしょう。
一方、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が毎年発表している『GPIF の国内株式運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」と「改善度の高い統合報告書」』に名前が挙がる統合報告書は、必ずしもアワード上位組と一致しません。「なぜこの企業が?」と驚かれるようなケースもあります。
この“評価のズレ”は偶然ではありません。
なぜなら、日経アワードとGPIFとでは、報告書に求める“本質的な役割”そのものが異なっているからです。
日経アワードが評価するのは、ひとことで言えば「上手にまとめた報告書」。
ロジカルで構成美があり、情報が整理されていて、読みやすく、誤読の余地がない——そんなレポートが高評価を得ています。
一方GPIFが評価するレポートには、上述のような「構成美」や「情報の整理」「読みやすさ」が少ない、あるいは十分でない、ある意味“未完成”とも評することができそうなものもあります。
これは、GPIFの株式運用機関が、
といった、投資家ならではの視点——「バリアント・ビュー(Variant View)」をもって情報を読み取ろうとしているためであると、私は考えます。
整っている報告書は、“情報”としては大変優秀です。
しかし、“思考の対象”にはなりにくい、ということもあるのです。
思考の対象となる、
深読みしたくなる、統合報告書。
——それは、日本画のような報告書かもしれません。
西洋絵画が遠近法と陰影を使って空間を細密に描くのに対し、日本画は「描かない」余白に意味を託します。遠くの山はかすみ、空は白く残される。その空白にこそ“広がり”や“詩情”が生まれます。
統合報告書にも、同じことが言えるのではないでしょうか。
戦略をすべて語り尽くすのではなく、KPIの選定理由も“にじませる”。
価値創造図も情報の羅列ではなく、「どう読み解くか」を読み手に委ねる構成にする——
そうした“語らない設計”がある報告書に対し、読み手である投資家は空白に思考を注ぎ込み、自分なりの視点(=バリアント・ビュー)を立ち上げていくのです。
整った報告書は読めば終わります。けれど、余白のある報告書は、読後に“問い”が残り、対話が始まる。そしてその報告書は、情報開示を超えて、企業と社会をつなぐ「知的な関係性の場」になります。
私たちは、そんな報告書づくりも、「語らない勇気」とともに支援していきたいのです。
アワードも意識しつつ、「語りすぎない」報告書も設計してみたい。
長期投資家との対話につながる構成とはなにか、もっとよく考えてみたい。
そうお感じの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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今回も、最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。