2025年3月28日、金融庁は全上場企業に対し、有価証券報告書(有報)を株主総会前に開示するよう要請しました。
株主総会前の適切な情報提供について(要請)有価証券報告書には、役員報酬や政策保有株式等のガバナンス情報等、投資家がその意思を決定するに当たって有用な情報が豊富に含まれており、上場会社においては、投資家が株主総会の前に有価証券報告書を確認できるようできる限り配慮することが望ましいと考えられます。
この点、有価証券報告書の提出は、本来、株主総会の3週間以上前に行うことが最も望ましいと考えられますが、多くの上場会社がただちにこうした対応を行うことには実務上の課題も存在すると承知しており、現在、金融庁では、官民の関係者と連携し、企業負担の合理的な軽減策を含め、課題の洗い出しや対応策の検討等を行っているところです。
他方、足元の有価証券報告書の提出状況を見ると、株主総会同日又は数日以内の提出が9割以上を占めていることから、現状でも、株主総会の前日ないし数日前に提出することには日程上の大きな支障はないのではないかと考えられます。これまで株主総会前の開示に取り組んでいない上場会社におかれましては、有価証券報告書を株主総会前の望ましい時期に開示する取組を進めるための第一歩として、今年から、まずは有価証券報告書を株主総会の前日ないし数日前に提出することをご検討いただくようお願いいたします。
なお、金融庁としては、2025年3月期以降の有価証券報告書の提出状況について実態把握を行い、有価証券報告書レビューの重点テーマ審査において株主総会前の提出を行わなかった場合の今後の予定等について調査を行うなどの対応を検討してまいります。
この動きは、一見するとスケジュールの話に見えるかもしれません。
ですが私は、この動きを、「統合報告書のあり方を見つめ直す大きな転換点」と受け止めています。
これまで、有報は財務部門が担う法定開示、統合報告書はIR部門が担う任意開示と、役割も目的も明確に分かれていました。
有報は制度に則り淡々と対応するもの、統合報告書は企業の“伝えたいこと”を表現する場——そうした棲み分けのもと、統合報告書では、有報の内容を部分的に引用しながらも、独自のストーリーを語る構成が一般的でした。
しかも、開示時期の関係から有報が先に発行されるため、統合報告書は一方的に有報で開示される情報の“受け手”となる構造でした。
しかし、総会前に両者が並ぶようになれば、その関係性は変わっていきます。
統合報告書と有報は「並列して読まれるもの」へと移行し、役割や伝え方のあり方が再定義されるのです。
私は今、有報と統合報告書が互いに刺激を与え合い、進化していく関係になることができる、そんな可能性を感じています。
たとえば、有報では制度的な制約ゆえに情報がセクションごとに分断されがちですが、
統合報告書では、それらの情報をつなぎ、価値創造の流れとして語ることができる。
このようにして描かれたストーリーが、次年度の有報の構成や視点に影響を与え、
その年の統合報告書はまたさらに、有報を前提とした「補完的で読みごたえのある対話文書」として研ぎ澄まされていく——
そんな、スパイラル状に循環し、進化していくことができるなら、
有報と統合報告書は、もはや別々の文書ではなく、企業が語るべきことをともに担う、「双子の」開示物という位置づけになっていくのではないでしょうか。
このような変化の中で、統合報告書に今あらためて求められているのは、「情報のつながり」であると私は考えております。
たとえば、私たちは制作現場で見かけるのは、このような場面によく出会います。
情報と情報の“あいだ”にあるはずの意図や価値が、文書の中に埋もれてしまっているのです。
ここで、よくある誤解をひとつ、解いておきたいと思います。
「ストーリーが伝わらない」と言われると、
「うちには派手な価値創造の物語なんてない」
「ドラマティックな構成や、大胆なメッセージが出せない」
とおっしゃる企業さまもよくあるのですが・・・
私たちは統合報告書のストーリーを、演出や技巧のことだとは考えておりません。
ストーリーとは、
情報と情報が論理的にも感情的にもつながり、
過去・現在・未来が一貫して語られ、
企業の価値観が静かににじみ出ていること、
それが読者の中に納得感や信頼を生む、「語られた企業像」
私たちがこのように考える理由、それは、
当社が「サステナビリティ」に軸足を置く企業であるからです。
サステナビリティの世界では、課題同士が複雑に絡み合っています。
気候変動、水、生物多様性、人権、資源循環——それぞれのテーマが相互に関係し、影響し合いながら、企業の経営と価値創造の根幹に関わっています。
この複雑な構造を、単なる情報の羅列ではなく、「つながりのある物語」として編み直していくこと。
それは、私たちがサステナビリティの現場で向き合ってきた仕事の核心そのものです。
情報と情報の“あいだ”にある関係性や意味の重なり、
そして語られないままに埋もれている企業の想いを、
読み解き、紡ぎ、伝える。
複雑で多層的な企業の実像を、読む人に伝わるかたちで構造化する。
私たちは、その“つながり”をともに見つけ、ともに紡ぐパートナーでありたいのです。
サステナビリティを深く理解しているからこそ、できる語り方があると、私たちは信じています。
今回の有報・統合報告書の接近は、開示のあり方を大きく変えようとしています。
けれど、恐れることはありません。
派手なストーリーがなくても、大丈夫です。
必要なのは、“つながり”です。
私たちは、これからもその“つながり”を見つけ、丁寧に紡ぐ存在であり続けたいと願っています。
ご関心があれば、こちらのリンクからぜひお気軽にご相談ください。
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お読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。