昨日(2025年3月26日)、日本気象協会は「2025年桜開花・満開予想(第6回)」を発表しました。
今日26日、全国最早で満開となった宇和島(日本気象協会の独自地点)に続き、29日には気象台の標本木のトップで東京と高知で満開となる見込みです。3月最終週の土日は西日本と東日本で寒の戻りが予想されるため、暖かい服装でお花見を楽しみましょう。
出典:tenki.jp 2025年3月26日「2025年桜開花・満開予想(第6回) 気象台の満開トップは東京と高知で29日予想」
・・・ってあれ??
つい最近、桜が「開花」したってニュースで言っていたような。
なんだか、展開が早すぎはしませんか…と思っているのはきっと、私だけではないはず。
ここ数年は、開花から満開までわずか数日で一気に進む年もあり、体感として「春が駆け抜けていく」ような印象を抱かずにはいられません。本日のブログは、気候変動の観点からこの点について、改めて考えてみたいと思います。
ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ
古今和歌集に収められたこの一首(紀友則)は、やわらかな春の日差しと、そこにそぐわぬように落ち着きなく散る桜の花の対比を、美しく詠んだものです。「春ののどかさ」と「桜のはかなさ」という、日本文化の根底に流れる美意識を象徴するような一首であり、学校でも習うことが多いですので、ご記憶の方も多いのではないでしょうか。
しかしながら今、私たちが迎えている春は、はたして「光のどけき」ものと言えるのでしょうか。
残念ながら、そうとは言い切れないように思えます。
この和歌が描いた風景は、科学的にも文化的にも大きく変わりつつあるのです。
最近では、30℃を超える真夏日が3月や4月に観測される一方で*1、その直後に15℃前後まで急激に冷え込む日もあり、季節の安定感が失われつつあります。こうした“乱高下する春”は、単なる温暖化現象ではなく、気候変動が引き起こす「極端気象の増加」であるとして、研究者が警鐘を鳴らしています。
「春らしい春」がなくなりつつあることは、平均気温の上昇だけでなく、気温の振れ幅が拡大していることにも起因しています。桜の開花や見頃も、この“落ち着きのない気象”に大きく左右されるようになりました。
気象庁や環境省、IPCCの第6次評価報告書(AR6)などは、気候変動によって四季の構造が変化しつつあると報告しています。たとえば「春の期間の短縮」「夏の長期化」「冬からいきなり夏への急変」といった傾向が示されています。京都の観測データでは、100年で桜の開花が5日以上早まっており、東京でも2020・2021・2023年には観測史上最も早い3月14日の開花が記録されています*2。
こうした傾向を受け、企業や自治体が例年通りのタイミングでお花見行事を計画することも難しくなっています。
桜の開花予想そのものは、温度積算法やAI技術の導入により年々精度が高まっていますが、近年の気候変動による寒暖差の激化や極端気象の影響により、満開や見頃の時期を正確に読むことが難しくなっているのです。2023年には開花から満開までの期間が非常に短く、驚異的なペースで進んだ年でした。
こうした状況は、従来型の「みんなで集まって飲食を楽しむ」スタイルのお花見を根本から揺るがせています。かつては「新入社員がお花見の場所取りをする」といった会社の風物詩もあったと聞いていますが、こうした慣例も成立しづらくなってきているのかもしれません。
「のどかな春の日に、花がはかなく散る」風景も、変化しているように思えます。
気温が乱高下する近年の春では、「のどけき」どころか、春の陽気を感じる日がわずか数日しかないことも。開花してすぐに強風や雨、あるいは夏日が到来し、のんびりと花を楽しむ余裕がないという声も聞かれます。
桜が「一気に咲いて、短期間で一気に散る」現象が顕著に。気温上昇と強風により、満開から散るまでが3〜4日しかないようなケースも増えています。近所の公園でも、花びらが「舞い落ちる」のではなく、「吹き飛ばされる」ように散っていく姿を見かけることが増えました。
桜をゆっくり眺めるどころか、天気と開花状況をアプリで逐一チェックし、「今日行かないと終わる!」と慌てて出かけている方も多いのではないでしょうか。鑑賞する私たち自身も、かつての“のどけき”気持ちを保ちにくくなっているのかもしれません。
冒頭でご紹介した和歌は、かつて「花の散りゆく儚さ」や「春のはかなき美しさ」を味わう時間があった時代の精神をあらわしていますが、現代の日本では、「のどけき春の日」「はかなく散っていく桜」といった情景そのものが、思い出して記憶し直さなければならないような「幻の」風景になりつつあるのかもしれません。
だからこそ、いまこの春を、ひとつひとつ丁寧に感じ、記憶に刻んでいくことが、未来への架け橋になるのではないでしょうか。
今年のお花見は、そんなことを考えながら、いつもより丁寧に桜を味わいたいと思います。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
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*1 まさに本日(2025年3月27日)、本州で今年初の真夏日が新潟県上越市高田で観測されたそうです。
*2 出典:ウェザーニュース 2023年3月14日 「東京・靖国神社で桜開花 観測史上最も早い記録に並ぶ開花発表」
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。