サクラソウが絶滅危惧種だとお伝えしたら、驚くかたも多いのではないでしょうか。
「いやいや、サクラソウなんて花屋の店先で売っているし、うちの子どもは小学校で育てているよ!そんな花が絶滅危惧種のわけないじゃない!」
という反論もおありかもしれません。
でも。
あなたがご存知のそのサクラソウは、たぶんセイヨウサクラソウ。日本の原種とは違います。
そして残念ながら、日本原種のサクラソウは絶滅危惧種なのです。
では、なぜ日本のサクラソウは絶滅の危機に瀕しているのでしょうか?
その理由の一つは、生息地の減少です。
たとえば、埼玉県の田島ヶ原サクラソウ自生地は、国の特別天然記念物に指定されている貴重な場所ですが、都市化や環境変化によってその面積は年々縮小しています。この自生地は、サクラソウだけでなく、多くの希少な動植物が共生する生態系の一部です。サクラソウが減ることで、そこに依存する昆虫や他の植物も影響を受け、生態系全体が崩れてしまう可能性があります。
さらに、森林の分断化も大きな問題です。
サクラソウは、トラマルハナバチというハチによって花粉が運ばれますが、このハチは巣穴となるネズミの古巣や、一年中エサとなる花が咲いている環境を必要とします。森林が分断化されると、マルハナバチも減ってしまい、サクラソウの受粉がうまくいかなくなります。実際、花粉は平均で5-7mしか運ばれないため、近くに異なるタイプの花がないとタネのできが大幅に悪くなってしまうのだそうです*1。
また、サクラソウには短花柱花と長花柱花という2つのタイプの花があり、異なるタイプ同士でしかタネができないという性質(異型花柱性)を持っています。
同じ株から増えた株は同じタイプの花しか付けないため、個体数が減少すると花タイプの偏りが生じ、タネの出来が悪くなってしまいます。コンピュータシミュレーションによると、サクラソウの数が10個体未満まで減ると、花タイプの偏りの影響が強くなり、タネがほとんどできなくなってしまうことがわかっているのだそうです*1。
しかし、希望もあります。
地元のコミュニティや研究者、行政が一体となって、サクラソウの保護活動を行っています。例えば、ふるさと納税を活用した保全プロジェクトでは、寄附金を使って自生地の整備や環境教育を推進しています。また、学校や地域団体が日本原種のサクラソウの苗を育て、自生地に移植する活動も行われています。
この話を知った私も、先日、日本原種のサクラソウの苗を取り寄せて、育て始めました。
うまくいくかはわかりませんが、毎朝、苗の様子をみるたびに、生物多様性と生態系保全について考えることはできるようになっています…。
みなさまも、次にサクラソウを見かけたときには、それが日本の原種なのか、セイヨウサクラソウなのか、ちょっと考えてみませんか?
それでは、また次回のブログで。
執筆担当:川上佳子
*1 出典:国立環境研究所「森林分断化がまねく林床植物の衰退」
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。