海外のサステナビリティ関連ニュースを調べるときに私が活用している情報源はいくつかあります。その中のひとつである、ジェトロ(日本貿易振興機構)の「ビジネス短信 ― ジェトロの海外ニュース」で本日、気になる情報を見つけました。
EU首脳、産業競争力強化の方針を再確認、欧州委はCSRDとCSDDDの再編の方向性示す(2024年11月18日)
欧州理事会(EU首脳会議)は11月8日、ハンガリーのブダペストで非公式会合を開催し、域内産業の競争力強化に関するブダペスト宣言を採択した。
とあり、
宣言の主な内容のひとつとして
行政手続き、規制対応、報告義務といった負担の大幅軽減に向け、規制の簡素化を進める。報告義務を最低25%軽減する法案を2025年上半期に提案するよう欧州委に求める。フォン・デア・ライエン委員長は会合後の記者会見で、報告義務軽減の一例として、企業持続可能性報告指令(CSRD)、タクソノミー規則、企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD)の3法は、規制自体は有益で存続させるものの、各法の報告義務には重複があるとして、1つにまとめる「オムニバス」法案を提案する方針を示した。
とありました。(※太線部は筆者によるもの)
※欧州理事会(EU首脳会議)とは何かについては、脚注*1をご参照ください。
ところで。
なぜ私がこのニュースに注目したかと申しますと、それは、この「ブダペスト宣言」が今年9月にマリオ・ドラギ前ECB総裁*2が発表した報告書(通称「ドラギ・レポート」への”答え”であったからです。
ドラギ・レポートについては、NHKのニュースをはじめ様々なメディアで採りあげられた*3ため、聞いたことがあるよ、というかたも多いかもしれませんが、サステナビリティ界隈でこのレポートが特に話題になった理由は、こちらです↓↓
フォンデアライエン欧州委員会委員長の2期目の「政策青写真」として公表された「ドラギ・レポート」に、EU規制の簡素化策の対象として、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)やサステナブル金融開示規則(SFDR)などが盛り込まれ、開示ルールの簡素化を求めたことが、各方面で話題を呼んでいる。同レポートはEU企業の競争力を回復・強化させるための政策改革案をまとめているが、EU内の複層的な法的規制や加盟国で微妙に異なる実施基準等により、EU企業が負担するデューデリジェンスコストは米企業などを上回る負担だと指摘している。
(出典:RIEF『EUの「ドラギレポート」が、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)やサステナブル金融開示規則(SFDR)等の簡素化案を提言に盛り込んだことで、企業、市場、NGO等で反響』)※太線は筆者によるもの
ご存じのように、CSRD/ESRSもCSDDDも、すでに走り始めているわけですが、そうした中で、ある意味「ちゃぶ台返し」とも言えるこのドラギ・レポートをEUはどう扱うのか、ということがこの1か月以上、私はずっと気になってそわそわしておりました*4。
そこに飛び込んできたのが、今回のニュースです。
「ブダペスト宣言」において欧州理事会(EU首脳会議)が「CSRD・タクソノミー規則・CSDDDの報告義務を1つにまとめるオムニバス法案を提案する方針」を示したこと。
そして、別なニュースソースによれば「欧州委員会に対し2025年前半に報告要件を少なくとも25%削減する具体的な提案を行うよう求めた*5」こと。
これらは、ドラギ・レポートの提言が受け入れられたということを意味しています。
ここから先、CSRD/ESRSやCSDDDがどうなっていくのか、ますます目が離せなくなってまいりました。
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本日も、お読みいただきありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 欧州理事会 (The European Council)とは:
欧州理事会は常任議長(EU大統領)、EU 加盟国首脳、欧州委員会委員長で構成される最高政治機関であり、EU首脳会議とも呼ばれます。年4回以上の会議を開き、 EU全体の政治的方向性や政策の優先順位を決め、EU理事会で合意形成されなかった複雑な問題などをめぐり決定を下します。ただし、立法権はありません。
(出典:駐日EU代表部公式ウェブマガジンEU MAG「EUの主な機関」(2024年4月19日))
*2 マリオ・ドラギ氏がどんな人物であり、なぜ「ドラギ・レポートが発行されたのかについては、NHKのニュースがわかりやすく説明していました:
マリオ・ドラギ氏はもともとエコノミストで、ヨーロッパ中央銀行の総裁を長く務めたあと、イタリアの首相にも就任した経歴を持つ。
ヨーロッパ中央銀行の総裁を務めていた当時は、深刻化していた「ギリシャ危機」を乗り切るための陣頭指揮を執り「スーパーマリオ」とも呼ばれた。今回、EUはこうした経歴から、ヨーロッパを代表する経済の専門家として、ドラギ氏に経済の処方箋を求めたのだ。
(出典:NHKニュース 2024年10月21日『ビジネス特集 世界で話題の「ドラギレポート」って?』)
*3 ジェトロ「ビジネス短信」も2024年9月19日付で「ドラギ前ECB総裁、EUの競争力強化に向けた報告書を発表、巨額のEU共同債発行を提言」という記事を発表しています。
*4 11月12日にはジェトロ「ビジネス短信」にて「欧州産業界、EUのDD指令に関し、企業の負担軽減や関連法令の早期整備を要請」という記事が発表されていたので、ある程度見えてきた気もしてはおりましたが…
*5 出典:Skadden「EU Seeks To Simplify ESG Reporting Obligations」(2024年11月15日)
※日本語は筆者による仮訳
In the Budapest Declaration, the Council of the European Union (Council) called on the Commission to present concrete proposals on reducing the reporting requirements by at least 25% in the first half of 2025. While it remains to be seen exactly how the Commission intends to achieve this goal with regard to ESG reporting, the latest announcement by Commission President von der Leyen suggests the Commission indeed intends to answer the Council’s call.
(EU理事会はブダペスト宣言で、欧州委員会に対し、2025年前半に報告要件を少なくとも25%削減する具体的な提案を行うよう求めた。欧州委員会がESG報告に関してこの目標を達成する具体的な方法についてはまだ明らかになっていないが、フォン・デア・ライエン委員長の最新の発表は、欧州委員会が理事会の要請に応えるつもりであることを示唆している)
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。